2020年にスタートしたadidasの「PRIMEBLUE」は、海に流入する前のプラスチックゴミを回収し再利用した素材、Parley Ocean Plasticを用いたアップサイクルライン。

昨今のファッション業界では、脱プラスチックやCO2排出量の削減など、環境負荷軽減のための取り組みが日を追うごとに盛んになっている。私たちは、店頭に並ぶたくさんの「エシカルな製品」を前に、グリーンウォッシュ(うわべだけ環境保護に熱心にみせること)なものを手に取らないためにも、それなりのリテラシーを身につけておく必要がある。

今回は、普段からadidasのスニーカーやアパレルを愛用しているというアーティストのYonYonとともに、危機的な状況にあるとされる海洋ゴミ問題の現状について、そしてPRIMEBLUEのようないわゆる「アップサイクル」アイテムが作られるプロセスとその有用性について学んでみよう。


プラスチックはなぜ海に流入させてはいけない? 海洋ゴミ問題の現状

まずは、大量のプラスチックゴミが海に流れ出るいわゆる海洋プラスチックゴミの問題に関して、今地球でなにが起きているのか、専門家の言葉に耳を傾けてみよう。

今回話をしてくれたのは、海洋研究開発機構JAMSTEC研究員で、サイト「プラなし生活」の運営者でもある中嶋亮太さんだ。

YonYon: 「まず、世界の海洋ゴミの現状について教えていただけますか」

中嶋: 「海洋ゴミには金属、ガラスなど、さまざまな材質のものがありますが、海で見つかるゴミの6〜8割以上がプラスチックです。現在、世界の海には毎年1000万トン以上ものプラスチックが流入していると考えられていて、その量は年々増え続けています」

YonYon: 「さまざまな材質のゴミがある中で、プラスチックが特に問題視されているのはなぜですか?」

YonYon

中嶋: 「プラスチックは軽いために拡散しやすく、回収しづらい厄介な材質だからです。劣化して5mm以下の大きさに砕けたマイクロプラスチックは海洋生物の体内にも入り込み、巡り巡って人間もそれを摂取しています。

プラスチックは、かつて海に捨てられていた毒性の強いPCBs(ポリ塩化ビフェニル)などの有害物質を吸着しやすく、またプラスチックには難燃剤などの有害物質がもともと含まれており、それを海洋生物が食べると脂肪に蓄積されていきます。現時点ではっきりとした研究結果は出ていませんが、人体への影響は計り知れないものがあると思っています」

海洋に流出したプラスチックが辿るサイクルのイメージ

YonYon: 「マイクロプラスチックが海の中に大量に漂っているということですが?」

中嶋: 「大部分は海底に沈んでいると考えられます。プラスチックが海底を覆うことで、海洋生物の生命維持に酸素や栄養源の供給が遮断される可能性があり、生態系に影響を及ぼすことも懸念されています」

海中を漂うマイクロプラスチック




まずは徹底的な削減と、再使用、リサイクル率の向上を

YonYon: 「生態系全体にとってリスクがあるんですね。今、1人ひとりが取り組むべきことはどんなことでしょうか?」

中嶋: 「普段から3R(削減、再使用、リサイクル)に取り組むことです。その中でも最優先すべきは、プラスチックゴミ自体を減らすこと。それと同時に、プラスチック製品の再利用やリサイクル率を上げていく必要があります。特に日本の場合は、コロナ禍前までは1人あたりのプラスチックゴミの年間廃棄量がアメリカに次いで世界2位と報告されていました(2018年国際環境計画より)。

日本は大量のプラスチックごみをリサイクル用に国外に輸出してきました。しかし2019年にバーゼル条約が改訂され、有害廃棄物の輸出や処分の規制が強化されたことで、日本国内には輸出できないプラスチックゴミが大量に蓄積されています。かなり深刻な状況だと受け止め、一人あたりプラスチックゴミの年間廃棄量を大幅に減らすよう努力したいところです。まずはペットボトルなど身近な使い捨てプラスチックを減らすことから始めてみるといいでしょう」


ファッション業界と環境問題

YonYon: 「ファッション業界では環境問題に積極的に取り組む企業が増えていますが、その背景って何ですか?」

中嶋: 「現在、製造された服の2着に1着が、着られないまま捨てられていると言われています。ファッションアイテムには大量のプラスチックが使われていて、国連貿易開発会議からも、ファッション産業が与えている環境負荷は業界別で2位の大きさであるという発表がありました。ファッション業界が変わらないと、世界の環境負荷が減りませんから」

YonYon: 「私もファッションが好きですが、消費者として今後どのようなことに気をつけたら良いでしょうか」

中嶋: 「高いリテラシーを持つことが大切です。環境問題に取り組んでいると見せかける、グリーンウォッシングも横行していますし、処理過程で人体に有害な化学物質が含まれてしまっている場合もあります。

生産業においては、adidasがPRIMEBLUEで行っているような脱ヴァージンプラスチックの取り組みは重要です。それと同時に、アップサイクルと謳って企業がクリエイティブな価値を加えてリサイクル製品を売っていたとしても、使えなくなったときにただのゴミになってしまえば、それはダウンサイクルになってしまう。 生産側は今後、完全なアップサイクルを実現するためにも、製品が使えなくなった後の回収、リサイクル方法まで提示し、定番化させていくことが望ましいですね」


アップサイクルなファッションアイテム、実際どうやって作ってる?

ヴァージンプラスチックを使わない製品を選んでいくことは、環境負荷の改善の一助になることは間違いない。

「買い物は投票」と言うように、きちんと知って選ぶことは、企業の環境問題への取り組みを応援することにもつながる。

PRIMEBLUEのラインナップに使われているParley Ocean Plasticは離島や海岸、海沿いの地域で海に流入する前に回収したプラスチック廃棄物をリサイクルした素材。PRIMEBLUEのスニーカーやアパレル製品の40%以上に使用されている。

全身のファッションを非ヴァージンプラスチックのアイテムにするのはなかなか難しいが、せっかく靴をアップサイクルなものにしたのなら、そこに合わせる靴下も同じく再生素材のもので揃えたいところ。

ここからは、YonYonさんとともにPRIMEBLUEのスニーカーに合わせて履くためのプラスチックゴミを原料にした靴下を実際に作ってみながら、アップサイクルのプロセスを追ってみよう。


糸はマテリアルリサイクルのポリエステル繊維

靴下の原材料に使うのは、バイオマス素材やリサイクル素材、マイクロプラスチック対策素材など、様々な環境配慮型素材を開発しているユニチカトレーディング株式会社の「パルパーエコ」という糸。

パルパーエコ

家庭から回収した使用済みペットボトルを、粉砕 → 溶融 → サイペレット化というプロセスでマテリアルリサイクルしたもの。マテリアルリサイクルとは、製品資源を原料としてリサイクルすること。ほかに、資源を化学反応により他の化学物質に転換してリサイクルするケミカルリサイクルや、廃棄物を焼却する際に発生する熱エネルギーを回収し利用するサーマルリサイクルといったものもある。今回はこのパルパーエコを使って、靴下を編んでいく。

通常のポリエステルとリサイクル素材の製造工程を比較した図 ©️ユニチカトレーディング





デザインコンセプトは「海」と「幸せ」

次は、どんな靴下に仕上げるか。YonYonさんによるデザイン決めのステップだ。

今回は、PRIMEBLUEシリーズからULTRABOOSTとSTAN SMITHの2足に合わせて2種類のデザインラフを描いていく。

adidas PRIMEBLUE ULTRABOOST 21/¥24,200
足ブレしにくいフィット感と、クッション性と反発性を両立するBOOSTミッドソールが搭載されたadidas屈指のランニングシューズが、Parley Ocean Plasticのリサイクル素材を使ったPRIMEBLUEモデルで登場

adidas Originals STAN SMITH PRIMEBLUE/¥13,200
ストリートの永遠の定番STAN SMITHも、PRIMEBLUEモデルで新たな1ページを刻む。キャンバス地を思わせる質感のアッパーが涼しげな一足

彼女が提案してくれたのは、自身のアーティストロゴとタトゥーをモチーフに、「海」と「幸せ」をテーマにしたデザイン。

YonYon: 「1つ目のデザインは、私のオフィシャルロゴを刺繍でソックス全体に入れたものです。シンプルなリブ生地に、守るべき海を連想させる青色と、地球をイメージした緑色をバラバラに並べました」

靴下製造工場のedoma清水さんとカラーチャートを見ながらデザインを詰めていくYonYonさん。今回は、染料の使用を最小限にするために、糸の生成りの色をベースカラーにしてデザインする

YonYon: 「2つめの靴下は、私の左足首にある四つ葉のクローバーのタトゥーをモチーフにした、総柄デザインのソックスです。

YonYonを数字にすると44。そこから連想される四つ葉のクローバーは、私にとって大切なモチーフなんです。リサイクル素材の衣服を選ぶことで、もっと世の中が幸せになるように。そんなメッセージを込めてデザインしました」




オリジナルソックスが完成!

デザインを決め、工場に発注をしてから2週間後。使用済みペットボトルを原材料にしたオリジナルソックスが完成!

YonYon: 「リサイクル素材でここまでしっかりと作れるんですね! よく見ると繊維に異物が少し混ざっていたりして、それが古着っぽい雰囲気になっていて可愛いです。肌触りもばっちり。

最近はリサイクル素材らしい色味だったり素材感を見せている製品も増えているから、それを『クールだ』って思えるようになれば、新しい流行となってみんなの意識もさらに変わっていくはずだと思います」

adidasのスニーカーは昔から頻繁に履いていて、STAN SMITHももちろん持っていました。PRIMEBLUEのSTAN SMITHのアッパーはキャンバス地っぽくて触り心地が全然違う。それでいて依然とSTAN SMITHらしさもあって、さすが定番モデル!(YonYon)

今回の企画への参加をきっかけに、海洋ゴミ問題やファッションと環境負荷の関わりについて、より深く関心をもつようになったというYonYonさん。「消費者側も生産者側もまずは知識を深めていくことが大事」であると痛感しつつ、次のように語ってくれた。

YonYon: 「環境問題に関しては、最近インタビューで意見を求められることも増えて、考える機会が増えてきました。今回、海洋プラスチックゴミ問題について知った現状は、衝撃的なものばかりでした。この絶望的な状況はもっと広く知られるべきだし、次の世代へクリーンな地球を残す為にも、強い危機感を持って取り組むべき問題だと思います。

すぐに100%変えていくことは難しいと思う。だけど、一人でも多くの人が環境に負荷がかからないものを少しずつ生活に取り入れ、意識的にゴミを減らしていくこと。それが今、私たちにできることだと思います」

BOOSTは他にも持っているのですが、このPRIMEBLUEのULTRABOOSTの履き心地はそれと似てますね。ランニングにばっちりだし、とても軽いです(YonYon)

ファッションとのサスティナブルな付き合い方は、流行より自分の「好き」を優先させること

消費的な文化の象徴として矢面に立たされているファッション業界。更新されるべきはその楽しみ方だと、YonYonさんは最後に語ってくれた。

YonYon: 「ファストファッション文化が象徴的ですが、大量に作られて一度も着られることなくゴミになってしまうファッションアイテムが無数にあることは、すごく考えさせられます。そもそもファストファッションの需要って『安い値段で新しい流行についていきたい』という焦りから生まれるものだと私は思っていて。

本来はファッションの楽しみってそういうものじゃなくて、自分が本当に好きだと思える服を選ぶことが大切だと思う。

そうすれば、今ある服を大切に長く着ることができるし、大切な服なら、着なくなったとしてもフリマで売って、また誰かが大切に着てくれるチャンスがある。

ファッションと一緒に楽しみながら、環境問題や企業の取り組みについて関心を持ち、自分自身の消費の意識を変えていく。そういった姿勢がアップサイクルにつながっていくと思います」

協力:edoma OEM事業部、ユニチカトレーディング株式会社

Profile

YonYon(ヨンヨン)

DJ、シンガー・ソングライター。韓国出身、東京育ち。2012年にDJとしてキャリアを開始し、アジアや欧米各都市のクラブ、フェスに出演。歌うDJとして幅広い世代に親しまれ、エッジが効いた踊れるサウンドで、多彩なBPMを縦横無尽にプレイする。そのほか、音楽プロデューサーやラジオDJ、ブッキングエージェント“BRIDGE”のプロモーター、イベント企画・制作、執筆などマルチに活動。向井太一&Slom、SIRUP&2xxx! といったコラボレーション曲を手掛けた「The Link」プロジェクトを経て、自身主宰の音楽レーベル「Peace Tree」を2021年に始動。3月24日には自身初となる1st EP「The Light, The Water」をリリースした。今後も日本からアジア、そして世界へ、良質な音楽を届けることを目的に様々な国のアーティストとコラボ予定。

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