スケートボードの世界観で茶道にまつわるアイテムを創作していくプロジェクト第2弾。発起人として、実際に作品をつくっていくのはスケーターでもある陶芸家・横山玄太郎。前回の茶杓に続いて、今回製作するのは床の間に飾る掛け軸。コラボレーション相手に、京都在住の表具師・井上雅博を迎えて出来上がった掛け軸とは一体どんなものか?

スケートデッキの表装という新たな挑戦

「掛け軸って一コマ漫画みたいなもの。テレビのない時代に色々なものを掛け軸から想像して、その空間を楽しむための手段にもなり得ます。その茶席の世界観を象徴する、一発の説得力があるかないかが重要です」

茶道における掛け軸をわかりやすく例えてくれたのは、表具師である井上雅博。今回の掛け軸は、本プロジェクトの発起人であり、スケーターにしてアーティストである横山玄太郎と、掛け軸や襖など表装の新調や修復を手がける井上のコラボレーションによって結実した。

サイドパネルにぎっしりと並ぶ漢字が目を引くVANSのシューズ。タンには”鮨”の漢字が刺繍してあり、唯一無二の存在感を放つ

掛け軸の画に取って代わったのは、スケートボードのデッキテープ。スケートボードの表に貼られた、紙やすりのようにザラザラしたグレーのあれだ。作品では、まるでピーラーで薄くスライスしたかのようなスケートデッキが掛け軸に貼り付けてある。

なぜデッキテープだったのか。それはすべてのスケートボードに共通する顔であり、“薄さ”にその理由があると横山は語る。

「掛け軸はペラペラの二次元なので、掛け軸に合うような何か薄いものを、と考えたときにデッキテープが思い浮かんだんです。デッキテープをボードの形に切って、さらにリアリティを出すために、トラックを留めるネジの頭も薄くスライスして、デッキテープの上から貼っています」

このデッキテープが、表具師である井上を悩ませた。

「本来、掛け軸は巻いたりして保管することが多い。そのため、薄くてシワのつきにくい、和紙や絹といった素材を使うことが多いのですが、デッキテープは堅くてクセがつきやすいので難しい。そこで厚みを出したパネル状の掛け軸を制作して、そこにデッキテープを貼っていきました」

従来の掛け軸とは違い、約1.8cmの厚みをもった仕上がりに

掛け軸は料理を引き立たせてくれるきれいな“器”

京都を拠点に、伝統的な表具師として修復作業に勤しむ一方で、現代アーティストたちの作品の魅力をより引き立たせる手法で、現代における表具師としての顔も持つ井上。表具師という希少な職業であり、伝統工芸から現代アートまで幅広く豊富な経験を持つ井上だからこそ、横山はごくシンプルなコミュニケーションを経て、デッキテープ一式を送りほぼ“お任せ”で、プロジェクトは進められた。

京都のアトリエで井上はさまざまな作品を仕立ててきた

「今回の掛け軸は、三種の裂地(きれじ)から構成されています。裂地というのは表具や茶道具に用いられる布のことで、何百種類もの色があります。もちろん色の組み合わせも無限大ですが、今作はVANSの赤いロゴをイメージさせるように赤いラインのあしらいを入れました。赤といっても山ほどあるので、全体のバランスを見ながら選んでいきます」(井上)

今回、一見すると実に伝統的な掛け軸の仕様に仕上がっているものの、パネル構造となっている今作はやはり新鮮で、「立体物であるスケートボードを正面から見たら二次元である」という特性を見事に表現したかたちだ。しかし、一般的に掛け軸に描かれる画とは違い、デッキテープのリアルな素材で、かつ光を反射するテクスチャーがインプットされることで、立体的な様相を呈し、二次元と三次元を行き来するような不思議な感覚に陥る。

そこには、「コラボレーションする作品の本質を見極め、その作品に合うように表装し、魅力を引き立たせることを考えています」という、名脇役にも通ずるような井上なりの哲学が潜んでいる。そこは、アーティスト本人の世界観を表現したアートとの大きな違いかもしれない。

作品と表装との関係性を紐解けば、「掛け軸というものは料理を引き立たせてくれる綺麗な器」という、横山流の例えがしっくりくる気がする。料理(デッキテープ)と器(掛け軸)がお互いを引き立たせる、幸せなコラボレーションが作品として結実した。

井上がこだわったという赤をポイントに、デッキテープが引き立つ美しい“器”が完成した

スケートとアートと茶道をつなぐもの

自身がアーティストである横山と、アート作品を表装する井上。スポーツでもあり、遊びでもあるスケートボードに宿るアート性をどう捉えているのだろう。

Photography: Wataru Yanase (UpperCrust)

横山は、「アートをどう定義するかにもよるけど」と前置きした上で、「アート作品にはアーティストの気持ちが込められている。一方スケートボードは楽しむことがベースになっている。どちらにも共通するのは、正解がなく、純粋な想いが元になっていることでしょうね。スケートでは見事なトリックだけでなく、下手くそであろうと一生懸命練習してオーリーがメイクできたときに周りのみんな含めてわーっと沸くのは、スケートならでは。それはアートのただつくりたいという原始的な欲求と似ているかもしれない」と語る。

それを受けて、井上はこう続ける。実は彼もまた、中学時代にスケートボードをやっていたという。

「作品を振り返ってみると、スケートとアートに共通する“楽しむ”ということを汲み取れたんじゃないかなと思ってます。今回の掛け軸は三段表装という伝統的な仕立てですが、パネルにしたことで、スケートボードが持つ、伝統から逸脱していくストリート感みたいなものを表現できたんじゃないかと」

自分自身も、周りの人も楽しませること。茶席を設けてお客をもてなし、自分自身も楽しむという茶道との共通点はこんなところにもあるのかもしれない。

VANS “SUSHI PACK” OLD SKOOL/¥8,800(手前)
VANS “SUSHI PACK” AUTHENTIC/¥8,800(奥)

とめどなく溢れ出るイメージから次に形になるものとは

これまでのプロジェクトで、前回の茶杓、今回の掛け軸という道具が二点が完成した。次作は、横山の頭にしっかりと形を帯びている。

「お湯を入れた茶釜を温めるために、風炉(ふろ)というものがあるんですが、これをスケートの要素を入れてつくってみたいなと。あとは、茶道具の茶碗を入れる桐箱をつくるのもありですね」

何か作品をつくると、それに触発されてまた次の作品をつくりたくなるという横山の脳内では、尽きることのないイメージの源泉が湧き続けているようだ。

Profile

横山 玄太郎(よこやま・げんたろう)

ポップで独創的な作品を生み出す現代陶芸家。門前仲町にアトリエを構え、銀座三越をはじめ国内外のギャラリーで作品を発表。森英恵や漫画『へうげもの』の企画展などに参加する。また、30年近く前に出会ったスケートボードに今でも魅せられている。

Instagram @gentceramics

Profile

井上 雅博(いのうえ・まさひろ)

京都国立博物館内の国宝修理所にて数多くの文化財修復に携わっていた初代の技を受け継ぎ、掛軸や額、屏風、衝立、巻物等の新調・修復をおこなう。一方で、「表具の伝統材料×ART」をテーマに現代の建築様式に合う表装を模索し、新たな和の設いを目指す。

http://kogado.jp/

Instagram @kogado

記事内のアイテムをチェック
記事内のアイテムをチェック

Related Item 関連商品

Related Story

Shoes × Culture

同じカテゴリー一覧を見る