誰もが、毎日のように靴を履く。だからこそ、どんな靴を履くのかにはその人の考え方や哲学がにじみ出る――。著名人にお気に入りの靴、記憶に残る靴について語っていただく「My Favorite Pair」。

第3回に登場するのは、アーティストのとんだ林蘭さん。コラージュやイラスト、ぺインティング、立体、映像など幅広い手法を用いて作品を発表しながら、企業広告や、渡辺直美、あいみょん、木村カエラなどのアートディレクションを手がけ、多くのブランドとのコラボレーションも行ってきた注目のクリエイター。彼女が厳選してくれたのは、コーディネートに“違和感”をもたらすユニークな3足。

人目は気になるけど気にしない、“違和感のある装いへのこだわり

はじめて履いたスニーカーは? と聞かれて、とんだ林さんが思い出すのは小学校低学年のときに親が買ってくれたCONVERSE。モデル名は忘れてしまったが、おそらく「ALL STAR」だったという。ベージュのローカット。周りに同じものを履いている人がいなくて嬉しくなったことを今でも思い出す。ところが、その後の学生時代ではスニーカーを履く機会はほとんどなかったという。

「実は、高校1、2年生のころはギャルだったんですよ。HARUTAのローファー以外に履いていた靴なんて、ブランド名もわからない厚底ブーツとかだったのかな……。洋服はALBA ROSA一択でしたね」

ギャル時代を通過したとんだ林さんは文化服装学院へ進学。紆余曲折を経て、今ではAcne StudiosやBALENCIAGAのアイテムを身にまとうハイファッション中心のスタイリングが定着してきた。昨今、多くのハイブランドがスニーカーアイテムを発表するようになって、スニーカーに興味が湧いてきたという。

「歩くことが好きなので、そういうときは決まってスニーカー。歩いているときってポジティブな思考になりやすいというか。仕事のアイデアが閃くことは、事務所で机に向かっているときよりもぼーっと歩いているときのほうが多いですね。ライブハウスやクラブに行くときもスニーカー、またはブーツかな」

20代のころのとんだ林さんはCONVERSEやVANSを好んで履いていた時期もあったが、ここ数年で方向転換があったのだとか。シンプル、ベーシックなものよりも、ボリューム感のあるスニーカーのほうがより自分好みのコーディネートになる。Tシャツにデニムというシンプルな格好では物足りない。せめて一箇所は違和感をつくりたくなるのだという。

「服も靴も変なデザイン、シルエットのものが好きなんです。たまに会う人には『すごい格好しているね』って驚かれます。自分は決して他人の目線が気にならないタイプではなくて、見られているって意識はある程度持った上でそういう服を選んでいるんだと思います。人の目が気になるけど気にしない、という気持ちでいられるのは、ギャル時代に養った『自分の好きな格好しかしない』という根性のおかげかもしれません」

とんだ林さんが選んだ「愛すべき3足」

今回、とんだ林さんが持ってきてくれた靴は3足。まずは1990年代後半のランニングシューズから着想を得たadidas「EQT GAZELLE」。通っている代々木上原のセレクトショップDELTAで購入した。

「白いスニーカーを意外と持っていないことに気がついて。お店で履いてみたらすごく合わせやすかったんです。ピンクのワンピースのような女の子っぽい格好に合わせることが多くて、仕事でニューヨークに行ったときはずっとこれを履いていました」

とんだ林さんは洋服も靴も海外通販で購入することが多いのだとか。Instagramのタイムラインに流れてくるアイテムをチェックしてはFARFETCHで買うという流れが定番だという。ショップで買うことも少なくないが、第一印象を大切にするのは、ビジュアルを作り込むアートディレクションの仕事に必要とされるマインドと通ずるものがあるように感じる。

「モニターで見る画像だけの印象で服や靴を買うことに抵抗があった時期もあるんですけど、慣れてくるとなんとなくオンラインでも失敗しない選び方がわかってくるというか。日本で売っていないものを多く揃えているような海外のECサイトは、商品ラインナップを眺めているだけでも楽しいんです」

2足目は、Maison Margielaのアイコニックな「Tabiブーツ」だ。長きにわたって愛されている名作だが、とんだ林さんのTabiブーツはピンクとシルバーのシルクスクリーンプリントが施されている。実はこの一足、友人にアレンジしてもらったものだとか。

「ちょっかんさんというシルクスクリーンをやっている友だちがいて。よく一緒に作品を作っているんですけど、一緒に色を決めながらその場でプリントしてもらったものなんです」

20代後半に購入した憧れの一足だが、最近は履く機会に恵まれていない。靴箱で眠っていたところを、シルクスクリーンで好みのデザインを加えたことで再び履くようになった。

「全身モノトーンの服装のときに履くことが多いですね。私は靴って消耗品だと思っているから、繊細なお手入れができないタイプなんです。ちょっかんさんのおかげで、これからは汚してもシルクスクリーンプリントでカバーしてもらえばいいやと思うようになりました」

最後に紹介してくれたのは、DELTAで購入したPUMAと中国のブランドSANKUANZのコラボレーションモデル。この奇抜なカラーリングと異素材を組み合わせた一足が、とんだ林さんにとっての最初のダッドスニーカーだった。

「ブランドとのコラボモデルって、わかりやすく変だったり普通では見かけない色だったりしますよね。これはいろいろな素材が組み合わされて使われているところも面白くて。私は今自分が持っているもののなかで1番新しいものが1番好き、というタイプなんですが、このスニーカーは例外で全然飽きないんです」

このPUMA x SANKUANZ 「CELL ENDURA」。デザインとカラーリングは1990年代を彷彿とさせる。これもひと癖ある一足だが、PUMAのクッショニングテクノロジーである「CELL」を搭載しているので動きやすさは折り紙つき。

「撮影の日に履くことが多いですね。動きやすくてシンプルな格好をしなくてはいけないときに、ボリューム感もあるこのスニーカーはワンポイントになるので重宝しています」

「その人ならではの定番スタイル」への憧れ

常に新しいものに心が動くとんだ林さん。事務所の一部屋につくったクローゼットは膨大な量の洋服やアクセサリー、靴で埋め尽くされているという。豊富なワードローブによってコーディネートの組み合わせは無数にあるが、いつも同じスタイルでひとつのものだけを使い続ける人にも憧れるという。

「アーティストの加賀美健さんってVANSの『AUTHENTIC』をボロボロになるまで履いているんです。それがすごくかっこいいんですが、それは加賀美さんのスタイルだから成り立つというか。憧れるけど、私は取り入れられない。

だから、もはや制服みたいに決まったスタイルを続けている人がすごく羨ましく思うこともあって。シンプルな服装なのに、遠くからでもその人だってわかることってあるじゃないですか。あれって何なんでしょうね」

自らのファッション愛を肯定しよう

自分がなぜファッションに惹かれるのか。そんな自問自答を繰り返してきたというとんだ林さんは、最近では一種の「開き直り」を得たという。

「『私はファッションが好き』と口にするのはちょっと恥ずかしい、という気持ちが自分のなかにあったんです。『ファッションにそんなにお金を使うなんて』と後ろ指を指されているように思ってしまうところがあったというか。

でも、私はファッションを着たり眺めている時間が1番楽しいし、仕事においてもファッションの存在は大きい。だから、狂っているくらい好きを全開にして、突き詰めることを肯定しようと思って。今の自分のファッションが今までで1番好きだし、気に入った服やスニーカーは躊躇せず買っていくぞ、って最近は思ってます」

ファッションを軸に紆余曲折を経て養ってきた感性が、自らの作品を生み出すクリエーションの源泉になっている。今のとんだ林さんは、そうして広がった自分の世界を、今また再編集し、研ぎ澄まそうとしているのかもしれない。今後のとんだ林蘭の作品と、そして足元の“違和感”にも注目していきたい。

Profile

とんだ林 蘭(とんだばやし・らん)

1987年生まれ、東京を拠点に活動。
コラージュ、イラスト、ぺインティング、立体、映像など、幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的でいて可愛らしく、刺激的な表現を得意とし、名付け親である池田貴史(レキシ)をはじめ、幅広い世代の様々な分野から支持を得ている。木村カエラ、東京スカパラダイスオーケストラ、あいみょん、Seihoなどの音楽アーティストへの作品提供、ZUCCaやGUとのコラボレーションを行うなど、精力的に活動の場を広げている。

http://tondabayashiran.com/

Instagram @tondabayashiran

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