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Shoes × Culture

My Favorite Pair「スニーカーって本当に自由だなあ」 ― 片桐仁とadidas岡本太郎モデルとの出会い

Photography Keisuke Tanigawa
Text Toru Izumoi
Edit Kunihiro Miki

誰もが、毎日のように靴を履く。だからこそ、どんな靴を履くのかにはその人の考え方や哲学がにじみ出る―。著名人にお気に入りの靴、記憶に残る靴について語っていただく「My Favorite Pair」。1回目は、片桐仁さん。コントグループラーメンズでデビュー、現在は俳優としてテレビやラジオ、舞台で活躍。さらに粘土作家としての顔も持つなど多彩な分野でその才能を発揮している。そんな才能とクリエイションあふれる彼が心打たれた一足とは。

衝撃的だった、岡本太郎との出会い

「どこで買ったか覚えてないんですよねえ」と困ったようにつぶやきながら、片桐仁さんは箱から鮮やかな黄色いスニーカーを取り出した。それは、日本が誇る奇才アーティスト、岡本太郎をフィーチャーしたadidasの「Adicolor Hi」だ。テニスボールのような起毛素材に包まれた表面に、付属のカラフルなワッペンを貼り付けてカスタマイズを楽しめる。「このワッペン、歩いているととれちゃうんですけどね」と片桐さんは笑う。

片桐さんが岡本太郎と出会ったのは、2001年ごろのこと。いや、美大出身の片桐さんが岡本太郎のことを知らないはずはないから、再発見したというべきか。忙しい京都公演の合間、スタッフに連れられて何気なく見に行った「太陽の塔」に衝撃を受けた。

高さ70メートルの太陽の塔は、実際に見ると想像以上に大きい。片桐さんの目の前にあったのは圧倒的なエネルギーの塊だった。岡本太郎といえば、あまりにも有名な「芸術は爆発だ!」の言葉とともに一世を風靡したアーティスト。ところがテレビCMに出演するなど、その自由奔放な活動から、一時は色もの扱いされることさえあった。1990年代当時「美大生の友だちで岡本太郎が好き、と言っている人はひとりもいなかったんじゃないかな」と振り返る。

太陽の塔との衝撃的な出会い以降、片桐さんは岡本太郎にのめり込んでいく。南青山の岡本太郎記念館や川崎の岡本太郎美術館を訪れ、改めてその作品と向き合った。「ずっと好きだったはずなのに、好きなことにも気づかなかった」という存在の大きさに気づかされた。片桐さんは、自身も粘土作家として膨大な作品を生み出しているアーティスト。同じ作家として岡本太郎の作品に宿るエネルギーに共感するものがあったのだろうか。

当日着ていたシャツも岡本太郎柄

青春時代のスニーカーの思い出

「靴はずっと好きだった」という片桐さん。靴にまつわる最初の記憶は、中学生のときに親に買ってもらったHANG TENの黒いスニーカー。当時から絵が好きだった片桐少年は、そのスニーカーを鉛筆でデッサンしたのを覚えているという。高校生になって通った美術予備校では、電車で向かいに座った人をデッサンするという課題が出された。でも「目が合ってしまうと怖いので、よく靴を描いていました」と片桐さんは振り返る。たくさんの靴をじっくりと観察したことが、今のスニーカー愛の原点にあるのかもしれない。

美大に入ってからは、靴や服に絵を描く友人をみて、「僕も美大生らしく、靴をカスタマイズしなきゃ」とクリエイティビティを発揮。当時流行したReebokの「INSTAPUMP FURY」に、世界堂(新宿にある巨大文房具店)で革用の塗料を買ってきて黄緑色に塗ってみたら、ムラになってしまって大失敗。それでも我慢して履いていたら、そのうち靴がバリバリにひび割れてしまったという。

芸人となってから出会った思い出深い一足が、お笑い芸人の間寛平が世界一周のアースマラソンにチャレンジしたときに登場したNew Balanceの限定モデルだ。世界地図をモチーフにしたパターンがカラフルな色使いで表現されたド派手なデザイン。「最初は見た目が気に入って買ったんだけど、履いてみたら柔らかくて歩きやすく、結局5色すべてを買って履きつぶすまで使い続けました」。

左右で柄が異なる靴下はピカソの絵がモチーフ

そんな片桐さんがインタビュー当日に履いていたのは、adidasの歴史的なモデルを現代的に解釈し直したモダンなライン、adidas Originalsの一足。GORE-TEXのロゴが大きく描かれているところがお気に入りで、ハイテク素材を使ったニットスニーカーは履き心地が良く、雨にも強い。「この前、多摩川で子どもにバシャバシャ水をかけられたけど、全然平気でした」と笑う。

スニーカーって、本当に自由だなあ

話しはじめると、次々と思い出のスニーカーが飛び出してきて止まらなくなってしまった片桐さんだが、その中でも特別なのが、冒頭に紹介した敬愛する岡本太郎の息吹が吹き込まれた「Adicolor Hi」だ。こればかりはもったいなくてなかなか履けず、仕事のときに数回履いただけだとか。「今回のコロナのステイホーム期間でたくさんのものを処分したけど、このスニーカーだけは捨てられなかったんですよね」と愛おしげに見つめる。

「スニーカーって、色が変わっていたり、形がヘンだったり。なんでもありで本当に自由だなあ、と思うんですよね」と片桐さん。芸人や俳優といった型にはまらない活動を続ける片桐さんだからこそ、そんなスニーカーの自由なあり方に共感しているのかもしれない。

Profile

片桐 仁(かたぎり・じん)

1973年11月27日生まれ 埼玉県出身、多摩美術大学卒業。現在はドラマを中心に、舞台・映画・ラジオなどで活躍中。近年の主な出演作は「99.9-刑事専門弁護士-」(16/18TBS)、「あなたの番です」(19/NTV)などがある、俳優業の傍ら粘土創作活動も行い2016年から2018年までは「片桐仁 不条理アート粘土作品展 ギリ展」にて全国ツアーを開催、2019年には初の海外個展を台湾で開催している。

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