仕事中や移動中、そしてプライベートタイム。ひとりの時間にはいつも音楽が寄り添っている。自分の生活を形成する、9曲にして究極のプレイリストとは!? 第13回に登場するのは、ラッパー/着ぐるみ作家という異色のキャリアを切り拓くアーティスト、なみちえ。 全員ラッパーのギャルサークル「Zoomgals」などでの衝撃的なパフォーマンスとは打って変わり、意外にも(?)今回は、いなたくも軽やかで心地よいプレイリスト。新時代を先駆けるセンセーショナルな表現の源泉では、あらゆる境界をたゆたう恍惚の音楽が流れていた……?!

Scene.1 秋夜へいざなうダンス・クラシック

少しずつ変わっていく季節を、移ろう空気感や冷たくなる風の質感で感じることこそが四季の楽しみ方だと私は思っているが、どうしてもこう、閉鎖的な社会になってしまった現代でその変化を感じることが少なくなってきた。マスクをすることでそれほど心地よくない不織布のザラザラした質感が顔の下半分を覆う(それも耳や鼻につけたピアスに引っかかるとこれがとても痛い!)。

2021年は香りの記憶に乏しい年だ。補完するように、夜中ひとり屋上で深呼吸し瞑想したりする。結局夜は夜でまた別の独特の香りが漂っているが、それはそれで好きだ。「あっ今日は海からの風だ。広がるように潮の匂いがして、皮膚にまとわりつく」「今日は山からの風だ。土の匂いがして、心地よく通り抜ける」「今日は都会の匂いだ。固くて、時にムッとする」とか。この瞬間だけは、昨日と違う夜を感じるために生きてるように思う。

Scene.2 身体を軽やかに起動するラグタイム・ジャズ

香りに乏しかった理由には「マスクで外界と遮断されたから」以外にも、突然の鼻炎でつい最近まで鼻が詰まっていたというのがある。寝てるときに突然呼吸ができなくなって、夢は中断され、無意識に口から思いっきり息を吸うと、その反動で目が覚めた。頭痛がしてその日は寝てられなかったので、適当にネットサーフィンして朝を待った。埃が原因か?と思い少しでも家の中をきれいにするためにも掃除を始めた。掃除は得意じゃないしやる気が起きない。そんなときは決まってDoo-WopやRagtimeを聴き心を踊らせる。

Scene.3 鍵盤が奏でる夢幻の響き

掃除が終わり次の日も同じように寝たときの夢の中で、私がとある所にマスクをつけず出かけていて(そういえば私の夢の中の世界ではマスク文化が浸透していない)、順調に目的地まで向かっていくんだけど突然ハッとなり「うまく呼吸ができねぇよぉーー!!!」と叫びながら膝から崩れ落ち、泣き出してしまった。悔しくて、地面を叩いて、振り下ろした拳には砂利が突き刺さる。目の前の鳥居をくぐれずじまいだった。

Scene.4 心地よさはルーツミュージックにあり

クラブで浴びるように音楽を聴いてたのも遠い記憶で、低音がふるふると皮膚の上で踊っていたあの感覚も忘れそうになっている。外界に刺激物(といっても自分にとって都合の悪いもの)をなるべく避け、ひっそりと大人しくなってしまった私の魂はなるべく肌触りのいい音楽を求め始めた。

Scene.5 今と昔、通底するリズム

今の自分の気持ちに寄り添う音楽の選曲は、今年の夏と秋の変わり目を思い出すことと同じくらい難しい。けれど音楽には昔の香りを思い出させる力もある。最後は最近の記憶を彩る音楽をチョイスしました。

――月日が経つと鼻の詰まりはなくなっていて、また満足に呼吸ができるようになっていた。屋上、今日もイヤホンをして、深呼吸をして、新しい思い出に刻むための香りを探している。

Profile

なみちえ

1997年生まれ。音楽活動や着ぐるみ制作・執筆などマルチな表現活動を行うアーティスト。2020年、東京藝術大学先端芸術表現科を首席卒業。同年リリースの1stアルバム『毎日来日』が、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が設立した作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-2020』に自主制作盤CDとして初めてノミネートし、特別賞を受賞。デザイナーの兄NASA、ダンサーの次女MANAとのヒップホップユニット「TAMURA KING」や、valknee、田島ハルコ、ASOBOiSM、Marukido、あっこゴリラと6人で結成された全員ラッパーのギャルサークル「Zoomgals」でも活動中。2021年春、PARCO「SPECIAL IN YOU.」モデルに起用。その多面的な表現・存在感は、音楽/アート/ファッションの垣根を越えて注目を集めている。

Instagram @namichietamura

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