シューズの上に構築された、東南アジア風の絢爛なブロック御殿。鎮座するモニターには、喜怒哀楽を発信するかのように表情豊かなキャラクターが。どうもなにやら会話している……? シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第15弾、登場するのはボクセルアート界を最前線で牽引するアーティスト、たかくらかずき。SFとアートがリンクしたとき、次世代のコミュニケーションが見えてくる?!

「最近靴を履く機会が減ってますよね。人に会いにいくときに必ず履くものだったのに、いまはモニター越しでも人に会えますから」。たかくらの言葉にハッとさせられる。コミュニケーションのデフォルトが劇的に変化してから、もう一年半が経とうとしているのだ。

「靴って結構重要なコミュニケーションツールだったと思うんですよ。会いにいくこと、つまりコミュニケーションの重心は下半身にあったのに、いまやそれは上半身に移行しました」。たかくらが今回手がけた作品は、彼の視点におとらず独創的だ。シューズのタンにモニターが載っている。小型のシングルボードPC(Raspberry Pi、通称「ラズパイ」)と繋がったモニターには、なにやらキャラクターが映し出されていて、ふにゃふにゃ変形しながらパクパクと口を動かしている。左右のシューズが、モニター越しに会話しているように見えなくもない。

「靴を左右対称、2つで一組って考えないと面白いなと思って。片方だけの靴って、なんかすごくミステリアスで、想像を掻き立てるじゃないですか。街で左右違う靴を履いてる人とか見かけたことがあるんですが、なんでなんだろうって思いますよね(笑)」。たかくらの作品を見ていると、シューズが人の道具であることをやめて自律しはじめたような、不思議な感じがする。

「今回は『コミュニケーション』をテーマにしました。歩いて会いにいくより画面で会いにいくほうが推奨されるこの時代、コミュニケーションのために『何の道具を使う?』ってあらためて問うてみようと」。少し前までコミュニケーションのために移動するのが当たり前だったのに、いつのまにか動かなくてもコミュニケーションが取れるようになってしまった。シューズがモニター越しにおしゃべりしているのは、この変化の風刺だ。シューズは移動することをやめ、モニター越しに会話している。

交錯するSFとPUMP、西洋と東洋

たかくらが今回チョイスしたシューズは、Reebokの「Pump Omni Zone II」。1991年に発表され、ポンプシステムをポピュラーにした名作シューズだ。レザーアッパーにプラスチックパーツ、靴底にチラリと見える六角形のミッドソール“Hexalite”。レトロフューチャーな感じがいい。NBAシーンで一躍脚光を浴びたハイテクシューズも、たかくらの手にかかると一気に表情が変わる。

「普段の制作では仏教的なモチーフ、エキゾチックな要素を使うことが多いんです。今回は抑えめにしたつもりだったけど、滲み出ちゃいましたね(笑)」。“魔改造のノリ”とたかくらがいう通り、3Dプリンタで出力したアジアンテイストなボクセルアート(ドット絵を立体化したオブジェ)とPump Omni Zone IIの取り合わせはカオスというほかない。

「Reebokは靴底の形がヘンなのが多くて気に入って、よく履いています。PUMPシリーズに対する喜びって、フィギュアとかに対するそれと近い気がするんですよね。僕はフィギュアやレゴを集めるのが好きなんですけど、PUMPにはそれらに近い『造形物としての良さ』があると思っていて。プラスチックのパーツが使われてたり、空気が入るっていうギミックも含めて、靴なのに手にとって遊べる感じがいい。ギークっぽさが好きなんです」

PUMPには「SF的なイメージを感じる」とたかくらはいう。「SFに描かれている特徴的なもの――ネオンとか3D映像ってアジアンテイストなものが多い。ゲームや映画に出てくる、そういうSFっぽさに影響を受けている部分はあります。SF映画『未来世紀ブラジル』(1985)にもサムライが出て来たりしますよね。僕が好きな『日本』のイメージって、西洋人から見た日本=東洋のイメージなんだろうなって最近思うんです。スピルバーグも黒澤明から影響を受けているし、ジェダイの思想は禅の思想と共通する部分もあります。西洋人が未来を描こうとすると、なぜか東洋的なものが紛れ込んでくるっていう面白い現象があるんですよ」。先進的で洗練された西洋世界が未来を目指すと、なぜかアジア的なものに行き着く。たしかに奇妙なことだ。それは、30年前のハイテクシューズにレトロフューチャーを感じる感覚に似ているのかもしれない。

アジアンテイストな御殿部分の制作工程。スケッチラフ(左)をボクセルソフトで3Dに起こし(右)、プラスチックで3Dプリントした

Reebok Pump Omni Zone II/¥18,700

「小さいときから家に漫画がたくさんあって、小学3年生くらいのときに手塚治虫にハマったんです。『火の鳥』や『どろろ』に描かれていた“魂のゆくえ”ってすごく東洋的・宗教的なトピックだと思っていたんですが、それがもっと年齢を重ねてから見た『エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』にも通じてるんですよね。自分の作品は、そういう死生観をベースにして、東洋思想とSFを合流させています」

科学を“信仰”した先にあるもの

「SFで描かれていることと現在起こっていることが、まったく無関係だとは思えないんです。『攻殻機動隊』に出てくる“義体化”と靴を履くことは、根っこは同じなんじゃないかって。僕らは裸足で歩かず、靴を履いて歩くのが当たり前ですよね。物質に自分自身を委ねてる。その依存度をもっとエクストリームにしたのが“義体化”なんじゃないかなと。要するにグラデーションだと思うんですよ。SFと現在は断絶した世界線ではなくて、地続きなんです」。東洋思想と未来志向が混ざり合った“たかくら的SF世界”とPump Omni Zone IIの出会いは、まさに「レトロ/フューチャー」というおかしみを体現しているようだ。

「モニターの中でおしゃべりしてるこのキャラクターはデータですよね。もしモニターがなければ、僕らはこのキャラクターのデータがPC内に存在することを“信じることしかできない”と思うんです。モニターがあるから、僕らはそこにつながったPCの中にデータは存在するって知ることができる。これって魂の存在を考えることと似てますよね。つまり、動いている身体や死者を祀るオブジェを見て、僕たちは魂があることを確認するし、目に見えるものがなければ魂の存在は信じることしかできない。ハードウェア、容器の役割ってとても重要だと思うんです。この作品も、いわばデータのための靴といえるかな」

キャラクターデータが格納された「ラズパイ」が靴を“履いて”いる。魂のありかにはハードが必要だ

魂もデータも目には見えない。でも、彼らは必ずそこ(お墓とかHDDとか)にいて、ときどき呼びかけに応えてくれる。いまや僕らは、モニター越しにだって相手の存在を確信できるのだ。未来のコミュニケーションは、もっとオカルトじみているのかもしれない。ハードウェアのあり方も、信じることの跳躍力も、テクノロジーやサイエンスのアップデートに呼応しながら進化/変化していく。

「“なんかわからないけど、応えてくれる”っていうのが、僕にとってのデータなんですよね。それって古代や中世の“なんか仕組みはよくわかんないけど、こうやると病気が治った”みたいなのと近いと思うんです(笑)。美術だってそう。絵の具がなんでチューブに入ってるのか、キャンバスにくっつくのか、理由や原理がわからずつくってる人は大勢いる。なんでフォトショップが動いてるのかわからないのに写真が加工できちゃうのと一緒です。テクノロジーの見た目は変わっても、関わり方の本質は変わっていません。それでもつくる/つくっているっていうことに面白さを感じますね」

Profile

たかくら かずき

1987年生まれ。アーティスト/アニメーション作家。TVやCM、映画のアニメーションを制作しつつ、2021年からはアーティスト活動にも力を入れる。現在は3DプリントやVR、NFTを使用し、日本仏教をテーマにデジタル表現の価値を追求している。近年のアニメーションワークスに、NHK教育テレビ「シャキーン!」、テレビ東京「シナぷしゅ」、劇場映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』など。PCゲームの配信プラットフォーム・Steamで、仏教シューティングゲーム「摩尼遊戯TOKOYO」を配信中。

https://takakurakazuki.com/

Instagram @takakurakazuki

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