紙をくしゃくしゃに固めたオブジェ、かと思いきや表面は妙にリアル。立体造形に写真を貼り付けた時吉あきなの作品は、最近のアート&カルチャーの分野で注目を集めている。カワイイ、でもどこか毒っ気のあるサイケデリックさが魅力の時吉作品とNew Balance「MS327」がコラボレーション! シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第17弾。

“本物”では生み出せない奇妙なリアリティ

青空の下、犬が靴を履いて走っている。いたるところに折れ目やツギハギが見えて、紙細工であることはわかるが、表面の図柄だけが妙に生々しい。フェイクとリアルが入り混じる感じは面白くもあり、認識が揺さぶられるサイケデリックなあぶなさもある。

アーティスト・時吉あきなは、写真を立体に貼り付けて造形をつくり出すが、そのモチーフは犬であることが多い。なぜ犬なのか? 「小さいころから犬が身近にいて、私にとって犬はいちばん近しい別の生き物なんです。それに犬はわりと自由に写真も撮らせてくれるし、姿形のバリエーションも多いし」。

そう答える彼女は、やはり犬を飼っている。「最近ウチの犬が太り始めてて。まぁ、飼い主のせいなんですけどね(笑)。散歩も嫌いやから、痩せへんなぁって。私がカワイイ靴を履いて歩きたくなるみたいに、ウチの犬もそうなったらいいなと思ったのが、今回の作品のきっかけです。現実的には犬が『痩せないと!』って自ら靴を履いたり、二足歩行で駆けめぐるっていうのは難しいと思うんですけど、作品の中だったらできるんじゃないかなって」。

躍動感のある動きはカートゥーンアニメのコヨーテを参照。右に進むにつれて“痩せて”いくという、飼い主ならではの願望を投影したコンセプト

よく動く日には、身体を思ってスニーカーを履くという時吉。「新しいスニーカーをおろしたときって、下見たらいつでもカワイイじゃないですか。『右足出してもカワイイ、左足出してもカワイイ』みたいな(笑)。だから選ぶのも楽しいですよね。ただ、そういう感情って人間にはあるけど、動物にはないんかもなって思ったんです」。フィクションの中で靴を履いて走っている犬は、かなりはしゃいでいるように見える。

実際のお散歩はとてもスロー。ちなみに作品と対面すると、お尻のにおいを嗅ぎにきたり、リアルすぎる舌を舐めて気にするなど、終始「?」の様子だった

「カワイイ!」だけじゃない、違和感の正体

今回時吉がチョイスしたシューズはNew Balance「MS327」。レトロランニングシューズを現代的にアップデートした人気の一足だ。選んだ理由について聞いてみた。「New Balanceって履き心地がいいじゃないですか。友だちにも『New Balanceええで!』っていう子多いし。MS327は、形が個性的で面白いですよね。あと、肌色とかベージュとか疲れない色というか、馴染みのいい色が好きなので」。クラフトテイストなデザインが、作品世界にも絶妙に溶け込んでいる。

New Balance MS327/¥13,090

ところで、普段はどんな工程で作品をつくっているのだろうか? 「まず、近所を散歩しながら、モデルになる犬を探しに行くんですよ」。思わず「えっ、そこから」と聞き返したくなる回答。「だから、地元ではちょっとした有名人になってしまって……。犬を探してる変わった人がおるって。そしたら近所のおばちゃんが珍しい犬の情報を教えてくれるようになったんですよね。『もうじきここにヘンな犬歩いてくるから、あんた、ちょっとここで待っとき!』とか『あそこの〇〇さんちも犬飼い始めたらしいで』とか、いろんな情報を。そうやってモデルになる犬を見つけたら、今度はその犬をスマホで撮影していくんです。ただ、ふつうに撮るわけじゃなくて、360度、上からも下からも撮るので、当然あやしまれますよね(笑)」。フランクな人付き合いと善意のおせっかい。関西ならではのコミュニケーションは聞いているだけで面白い。

“ドッグサロン”と化している駅前の本屋さん

写真を調達したら、次はメインの立体造形にとりかかる。「新聞紙で形をつくって、その土台に出力した写真を木工用ボンドで貼っていきます。新聞紙の土台は、犬を見たときの自分の記憶や体感を思い出しながらつくるんです。大きさや形をさぐりさぐり、思い出していくようにつくっていく。表面の写真はリアルなんですが、サイズや質感、照射による陰影具合などはバラバラなので、貼っていくうちに辻褄の合わない部分が出てくるんですよね。でも、それには抗わない。むしろ、そのズレを楽しんでいくというか。そうやってコラージュしていくうちに、写真の図柄が思いがけないつながり方をして、リアルとフェイクが曖昧な面白いイメージが生まれたりするんです」。

時吉の作品は見る人を「!?」とギョッとさせて、一瞬にして鑑賞の世界へと引きずり込んでしまう。そして鑑賞者はいつの間にか、時吉の記憶を“悪夢的”に追体験している、という仕組みだ。例えば今回の作品、舞台となる背景の写真には、建築家ル・コルビュジエの名作「サヴォア邸」の庭園風景と「淀川の河川敷」がコラージュされている。時吉が実際に撮影したのち、写真フォルダに眠っていた大量の“記憶”の中から、「絶対につながらないはずの2つの場所」がないまぜに浮上することで、どこかシュールな異空間を形成している。

動物の全身をくまなく撮影するため、制作には大量の写真が必要になる。今作はシューズも含めて150枚以上撮影し、それらをコラージュして実際にA3出力した枚数は50枚以上になったという

人はなぜ「体験を共有したくなる」のか

近年、時吉はファッションブランド・コトハヨコザワ(kotohayokozawa)とのコラボレーションや、お笑いコンビ・金属バットが主催するアート展「ヤバめの金属バット工場」への招待出品など、活動の幅を広げている。また、ロックバンド・GEZAN主催の投げ銭フェス「全感覚祭」のアートエキシビジョンにも参加するなど、アングラ感のあるカルチャーとの親和性も高い。「子どもが見たらトラウマになるんちゃうかな(笑)」と本人が言うほど、ポジティブ・クレイジーというべき多面的な魅力がある。

「作品をカワイイって言ってくれる人はいるんですけど、私はあんまりカワイイとは思ってないんですよ。硬いし、ツギハギやし。犬=カワイイっていう感覚で作品を見ているのかな。もちろん、それは間違いではないんですけどね。でも、子どもが『コワイ!』とか『ワンワン……じゃないー!』とかいう反応を見てると、そっちのほうが正しい気もする」。フェイクが生み出す、さまざまにリアルな感情。リアクションは千差万別だ。それはまた、人の感情がいかに複雑か、ということの裏返しでもある。

「見たことないものとか、体験したことないことを自分で発見したら、共有したいと思うんです。ただ写真を1枚見せただけでは伝わらない。だから、コラージュしたりインスタレーションしたりして、自分が発見した世界を誰かに“体験”してもらいたいと思ってます」

「カワイイ!」だけなら、写真1枚のシェアで事足りるかもしれない。では、やや複雑な「もっと痩せて欲しい! お洒落もさせたい!」ならどうか。愛犬に押し付ければエゴになってしまうような気持ちも、作品を通して追体験すればこそ共感できる。陰陽さまざまな人間の感情や思考をダイレクトに伝達してくれるのも、アートの面白さだ。時吉は臆することなく自分の「体験」を表現していく。それがときにいびつなものであっても、ありのままの気持ちを肯定するところからコミュニケーションは始まる。

Profile

時吉 あきな(ときよし・あきな)

1994年大阪生まれ。2016年、京都造形芸術大学情報デザイン学科卒。スマートフォンで撮影した対象の写真をコピー用紙に出力し、原寸大の立体コラージュとして再現する作品を制作。平面の写真を強制的に立体にすることで、不自然な歪みや独特の表情を持つ複製物が生まれる。平面と立体、リアルとフェイクを行き来しながら、複製を繰り返すことによる表現を試みる。近年はお笑いコンビ・金属バット主宰アート展への出展や、ロックバンド・GEZAN主宰のフェス「全感覚祭」参加、ブランド・kotohayokozawaのLOOKへの作品提供、「シブカル祭。」参加など、マルチな領域で注目を集めている。なお今回の作品は、時吉が参加するグラフィックアートの大規模展覧会「WAVE2021」にも出展予定。

Instagram @akinatokiyoshi

Event Information

WAVE2021
New Currents in Japanese Graphic Arts

会期: 2021年10月9日 ~ 10月17日

会場: 3331 Arts Chiyoda / 1F メインギャラリー

開場時間: 11:00 ~ 19:00

休場日: 会期中無休(最終日18:00閉館)

料金: 一般 1,000円 / 65 歳以上、高校生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料、当日に限り出入り自由

主催・運営: WAVE2021 実行委員会+ ENLIGHTENMENT

企画構成: 高橋キンタロー / ヒロ杉山

http://elm-art.com/wave/

問い合わせ: 3331wave@gmail.com
※現在の新型コロナウイルスによる社会状況下において、対策対応の判断を続行中のため、今後の政府や東京都の発表、行動自粛や感染拡大状況により中止や延期を含む企画変更を行う可能性あり

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