Story

Shoes × Culture

アート・オブ・シューズAIR MAXは仮想空間の夢を見たか ー 制約の隙間から生まれる新世代のアート

Artwork Naoya Hirata
Photography Ryosuke Misawa
Text Sosuke Misumi
Edit Hayato Narahara
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN)

いま話題のアーティストが、シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」。第2弾はシュールでポップな3DCGを駆使する気鋭のアーティスト、平田尚也。NIKEの名作「AIR MAX 90」とのコラボレーションで生まれた注目の作品とは!?

デジタルネイティブのリアリティ

雑多なオブジェクトが寄せ集まって、シュールな景色ができあがっている。実物を撮影した写真のように錯覚してしまうが、そうではない。背景や床面を含め、すべてレンダリングされた3DCGデータだ。360°どこから見ても本物そっくりにできている。「空間ごと作り出すことが自分の創作」と平田尚也はいう。

彼は、インターネット上で収集した画像や3Dモデルを組み合わせて、仮想空間で“彫刻”を作る。デスクトップ(3DCGソフト)上で行われるこのプロセスを、彼は「アッサンブラージュ(寄せ集め)」と呼んでいる。

「普通彫刻というと、石やブロンズみたいな硬くて重い素材をイメージすると思います。僕も最初はそうでした。美大生のころは石や鉄を造形する技術を学んでいましたし、そういう彫刻に憧れもありました。でもリアリティがなかったんです。だから、背伸びしたり嘘をついたりせず、自分が等身大で向き合える素材って何だろうと考えました」。そんなとき彼は3DCGソフトの存在を知ったという。「PCやインターネットと一緒に育ってきた世代としては、今自分が扱うべき素材はやはりこっち(3DCG)なんだろうなって思いましたね」。

彫刻に組み込まれているAIR MAX 90は、収集した3D素材をもとに自らモデリングしている

平田が今回モチーフに選んだのは、NIKE「AIR MAX 90」。1990年に発表されたAIR MAX 90と1991年生まれの平田は“同世代”。「生まれてから30年、同じ時代の空気を吸ってきたって考えると親近感がわきますね」。彼は今回の作品をどのようにとらえているのだろうか。

「もともとAIR MAX 90に造形的な魅力を感じていたこともあり、本来このシューズが出会うことがなかったであろう形や空間と引き合わせる、というイメージが生まれました。図像的なおもしろさを打ち出すことで、AIR MAX 90自体の存在感もさらに際立つのでは、と考え、オブジェクトを組み合わせていったんです」。

PCでの作業風景。配された素材たちに“調和”が生まれているかどうかで、作品になるか否かが決まるという

「ただ今作に限らずですが、なぜその素材をセレクトしたのか? と聞かれると、大体いつも返答に困ってしまいます(笑)。作品によりますが、基本的には考えないようにしているというのが正直なところかもしれません。純粋に色と形として素材を受け入れたい、という意識があるので」。

見れば見るほど、精巧に作られたディティールにも驚かされる

彫刻の素材は、ネット上に落ちている

平田の創作でユニークなポイントがもうひとつある。彼の彫刻の素材(データ)は、すべてネット上で拾ってきたものだ。一から手作りしているわけではない。

かつてシュールレアリスムのアーティストたちは、ちまたの既製品(レディメイド)を寄せ集めて“彫刻”をつくった。男性用小便器を台座に乗せて“作品”にしたマルセル・デュシャンは、その最も有名な例かもしれない。インターネット上の既製データを仮想空間でアッサンブラージュする平田の創作スタイルは、シュールレアリスムの手法を現代に応用したものとも言えそうだ。

「素材から“記号性”を取り去ってみたいんです。つまり、その用途やイメージではなく、造形物としての美しさを際立たせたい。既製品をまったく違うものに変えてしまうシュールレアリスムの技法は、その点で有効です。

それに、現代の既製品はモノだけに限りません。実体を持たないデータも、ネットという“ちまた”に溢れています。100年前のアーティストたちが商店やゴミ捨て場で彫刻の素材を探したように、現代に生活する自分はインターネットの中で彫刻の素材を収集しているんです」。

2017年の映像作品『Repetition game』。ホンモノと区別がつかないほどのクオリティ。仮想空間でのアッサンブラージュ彫刻というアイデアは文化庁メディア芸術祭でも高い評価を受けた

AIR MAX 90とアートの意外な関係

そんな彼に“素材”としての魅力を見出されたAIR MAX 90。一番の特徴はなんと言っても、大きなウィンドウから見えるエアソールユニット「ビジブルエア」だ。NIKEを象徴するテクノロジー&デザインでもあり、ワールドワイドに知られたファッションアイコンでもある。

NIKE AIR MAX 90/¥13,200

生みの親はNIKEの伝説的シューズデザイナー、ティンカー・ハットフィールド。デザインするとき、彼は2つのものからインスピレーションを得たという。ひとつは、イタリア製のスポーツカー。流線的なシルエットはそのスピードとフォルムを表現し、ディティールには車の外装を思わせるTPUパーツが施されている。

そしてもうひとつが、フランスの美術館「ポンピドゥーセンター」だ。パリの街角に突如出現する斬新な建築から「ビジブルエア」のアイデアは生まれた(ちなみに、デュシャンの便器はポンピドゥーセンターにある!)。スポーツカーと美術館が、スニーカーの上で出会う。そんな“アッサンブラージュ”が生んだ一種のアートワークとも言えるAIR MAX 90。今回のセレクトの必然性が感じられないだろうか。

平田がアーティスト仲間と共同で借りているアトリエ。展示の準備をしたり人と会ったりなど、リアルな接点を持つ上で欠かせない場所だ

アートはそもそも自由じゃない

平田が手がけるユニークな作品は、アートシーンで注目を浴びる一方、さまざまなブランドからのコラボレーションオファーも絶えない。純粋なアートとしての自由なクリエーションと、商業的なクライアントワークにギャップを感じたりはしないのか? それはない、と彼は断言する。そしておもしろい話をしてくれた。

「アートって、そもそも自由じゃないですからね。いつの時代も、クリエーションには一定のルールや制約があります。ミケランジェロやレンブラントの作品も、言ってみればクライアントワークで、発注者の意向が制作を方向付けていますよね。素材の扱いにくさやマーケットの原理、検閲も含めて、アーティストは世の中のさまざまな制約をかいくぐって作品を実現させています。それは今も昔も変わっていません。

そういう意味でも、自由な創造がアートなのではなく、制約の中で自由になるプロセスと技術がアートなんだと思っています。制約を無視して自由に振る舞うのは簡単、というか安易です。制約をクリアするのは困難ですが、だからこそ価値ある自由が手に入るとも言える。『なんでもやっていいですよ』の中で何かを作っても、それが本当に意味のある行為なのか僕には疑問です。ルールや制約の中でモノを作る方が楽しくていいですよ」。

なるほど、サッカーのスーパープレーは「脚しか使えない」というルールがあるから生まれる。言い換えれば「脚だけでどこまで自在にボールを操れるか」という制約が、世界を驚嘆させる美しいプレーを生み出す。アートも同じだろう。“自由なプレー”に価値が宿るのは、世の中の制約を巧みにクリアするがゆえだ。今回の作品が語りかけるように、したたかでクリティカルな知性はそう教えてくれた。

Profile

平田尚也(ひらた・なおや)

美術家、彫刻家。1991年生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科卒業。「第18回グラフィック『1_WALL展』」グランプリ。「第21回文化庁メディア芸術祭」アート部門審査委員会推薦作品選出。「群馬青年ビエンナーレ2019」ガトーフェスタ ハラダ賞受賞。

https://www.tokyoartsandspace.jp/creator/index/H/328.html

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