Story

Shoes × Culture

アート・オブ・シューズASICS×アフリカンの大胆ミクスチャー。クリエイティブは自由な“誤読”からはじまる

Artwork & Photography EYE
Text Sosuke Misumi
Edit Hayato Narahara
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN)

シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」。第3弾はビジュアルとサウンドを横断するアーティスト、EYE。謎めいたスキマを常に探り続ける才能が、国産シューズの名門ASICSとコラボレーション。「GEL-PTG」×アフリカンで異色の作品が!?

シューズは仮面、ランニングは儀式?

作品タイトルは『ARG(アーグ/African Running God)』。その大きさから彫刻のようにも見えるが、これは「仮面=マスク」だ。植物や豆皮、レコード、ケーブルといった雑多な素材とASICS「GEL-PTG」がシンメトリックに構成され、たしかに顔のように見えなくもない。さらにその上から、鮮やかな原色のペインティングが無造作にほどこされている。荒々しさと神聖さが同居した、プリミティブな印象がある。

作品のコンセプトは「大地に耳をつけ、地球の音とリンクする」。ふつうスポーツシューズはランニングを快適にエスコートする存在だが、EYEの「シューズ観」はそれと一線を画す。シューズは「大地を感じるインターフェース」だと彼はいう。大地から伝わってくる情報を、体へと流し込むための「入り口」としてシューズがあるということだ。なんとも目からウロコな定義。しかし納得感がある。

「作品について考えていたときに、ふと子どものころ、シューズを耳につけたことを思い出しました。シューズが地球の音を感じるためのインターフェースで、大地とリンクするためのメディアとすれば、アフリカの部族がかぶるマスクとも似てきます。シューズもマスクも装飾性があるし、身につけることで大地や森とつながるという意味ではリチュアル(儀式的)なので、この『ARG』マスクを装着すると“地球のタイミングとリンクできて、山間の移動を爆速化する”というのが作品イメージの大枠です」。

コンセプトが浮かんだ際のビジュアルメモ。マスクとして装着したり、祭壇らしき丘に供えたり、『ARG』は多義的な存在であることが伺える

「そこからさらに、遺跡で発掘されたテイストを加えていきました。アフリカの遺跡が、ボルネオの原生林の中で発掘されたような、起源横断的なイメージです。廃棄されていたものが発見される感触を求めて、スローイングによるペイントを何回もやりました。それでできた層を剥がしてラメを塗り、またペイントして削る、という作業を遺跡発掘作業のバイトの経験を思い出しつつ繰り返しました」。

サイケデリックな色彩感覚もEYE作品の特徴のひとつ

あらゆる時代、あらゆる文化の中で、マスクは「変身」のためのツールになっている。かぶることで顔=個性が消えて、自分とは別の何かに化けることができる。EYEはシューズを「足に履くマスク」と呼ぶが、とてもユニークな視点だ。シューズを履くということは「自分の足が別モノになる」という経験にほかならない。素足では走れない場所を“爆速”で走ったり、魅力的なスタイルを演出したりできるのは、シューズというマスクが自分自身を「変身」させているからだ。“シューズ=マスク”というロジックを透かせば、現代のライフスタイルがもっとおもしろく見えるはずだと彼はいう。

ハイテクシューズとアフリカンのMIX

そんなEYEが以前から愛用してきたというASICS、創業は1949年。戦後間もない日本で産声をあげた小さなシューズメーカーは、いまやグローバルブランドとして世界的に認められるようになった。ハイテクとファッション性を兼ね備えたスポーツシューズの数々は、アスリートからライトユーザーまで幅広いファンを得て、欧米や東南アジアでも人気を集めている。

ASICSが最初に手がけたプロダクトはバスケットボールシューズだった。EYEが今回チョイスしたGEL-PTGは、1983年に発売されたバスケットボールシューズ「FABRE POINTGETTER」をデザインベースにしている。ヒールウェッジにfuzeGELを搭載し、クッション性を強化。コートシューズとしてのユーティリティとクラシックなデザインはそのままに、ライフスタイルシューズとして生まれ変わったGEL-PTGは、カジュアルユースにぴったりのシンプルで使いやすい一足だ。

コンセプトを考案している様子

「GEL-PTGのグリーンラインの光沢をながめていると、リゾーム(根っこ)が地中に伸びていくイメージが湧いてきました。走るってことは、アスファルトとの摩擦を経て、意識が根のように下へ下へと伸びていくことなんじゃないかなって。走ることで地中を“浴びたい”っていう衝動的な感覚とか、森と地中のあいだで循環するエネルギーの躍動や疾走感みたいなものを、たまたま頭をよぎった『アフリカン×ASICS』というワードをハブにして結びつけられないかなと思ったんです」。

クリエイティブの起源は「誤読」にある?

EYEにインスピレーションの源は何かとたずねると、意外な答えが返ってきた。例えばそれは、空のコインパーキング、道路に散乱したゴミ屑、何の表示もない業務スーパーの棚、ユンボの作業音、田んぼの鳥除け用CDなどなど。そこにはドラマもなければ、ロマンもない。洗練された感じもなければ、魅力的でもない。無味無臭で、みんなが意識すらしないものが多い。生活の外側に捨てられた、廃棄物のような物事。しかし、そういう一見取るに足らないモノから「にじみ出ている何か」に惹かれるという。

「シューズという商品ひとつとっても、そういった隠せない“にじみ”があります。それは日常の背景に溶けてしまっていて見えにくいですが、ときどき“裂け目”のように目の前に現れることがあります。それまで見えなかったものが生々しく現れる、その現象自体に興味があります。作品をつくるモチベーションは、モノを生み出すことではなく、モノが“別の何か”に変容するプロセスに立ち会いたいという気持ちにあるのかなと」。

シューズのみならずレコードやケーブルなどが「別の何か」として構成され、新しい存在=作品へと昇華されていく

オルタナティブ・ロック・バンド、BOREDOMS(V∞REDOMS)の中心人物としても知られるEYE。アートでの創作と同様に、プリミティブかつリチュアルな世界観が特徴的な音楽活動においても、上に挙げたようなインスピレーションの源は共通しているという。物質の背負うレッテルが剥がれ落ちたとき、その物質に内在する何かがにじみ出てくる。アニミズム的なまなざしは、ビジュアル/サウンドを回遊するような独自の表現活動の礎にもなっている。

ところでASICSの社名は「健全な生命は健全な身体に宿る(Anima Sana in Corpore Sano)」という言葉が元になっている。この一節は古代ローマの詩人ユべナリスの言葉「健全な精神は健全な身体に宿る(Mens Sana in Corpore Sano)」に由来している。もともとこのフレーズは、ユベナリスがよき生活のためのアドバイスとして発したものだが、創業者の鬼塚喜八郎はこれを「スポーツの使命」と読み替えた。

おもしろいことに「健全な身体をスポーツでつくり、健全な若者を育てたい」というモチベーションは、古代ローマの人生訓から生まれたわけだ。ユーラシアの東と西、しかも2000年の時をへだてた、壮大な「誤読」が起こっている。そしてそれは、今回のアートワークでも同じだ。一見すると縁もゆかりもないGEL-PTGとアフリカンなイメージが連結したのは、「能動的な誤読」の結果だとEYEはいう。クリエイティブはいつでも、突拍子もない読み替え、つまり誤読からはじまっているのだ。

Profile

ヤマタカEYE(やまたか・あい)

1986年にエクスペリメンタル・ハードコアバンド「BOREDOMS」を結成。リーダーとして牽引し、ソニック・ユース、ニルバーナなどと欧米各国のツアーを行うなど世界的な評価を得る。2001年以降は「V∞REDOMS」として、ドラム3台とDJの形態でまるく輪を組み演奏する、より記号的・包括的な表現スタイルに進化。2007年には77台のドラムとのコラボレーションイベントである77BOADRUMを、2008年には88BOADRUMをニューヨークやロサンゼルスで開催。現在「BOREDOMS」としてさらなるフェイズに入っている。また、BECK『Midnite Vultures』のアルバムジャッケット制作や、画集『NANOO』、『WEOEM』、『ONGALOO』を出版するなど、さまざまなアートワークを音楽と並行して行っている。近年は、2017年札幌国際芸術祭『DOT KAY DOT』、2018年さどの島銀河芸術祭『SADOT CAY DOT』につづく新シリーズ『レコーン』を2019年、鉄工島FES、原宿BLOCK HOUSEで発表。音楽/アートの垣根を越えてセンセーションを巻き起こし続けている。

http://www.boredoms.jp/index.html

https://www.artsy.net/harukaito-by-island/artist/yamataka-eye

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