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Shoes × Culture

アート・オブ・シューズ再構築される80年代アメリカンカルチャーへの憧憬 ― 名作シューズ「AIR JORDAN 1」×アートが投げかける“リアリティ”への問い

Artwork Takuro Tamayama
Photography Isamu Ito
Text Sosuke Misumi
Edit Hayato Narahara
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN)

シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」。第4弾は、ファウンドオブジェクトを駆使したミニマルアートで知られる若手アーティスト、玉山拓郎。ユニークな解釈で古き良きアメリカンカルチャーとシンクロする彼が、アメリカが生んだスニーカーの金字塔「AIR JORDAN 1 MID」とコラボレーションする!

一見するとオシャレな洗面台にも見えるが、そうではない。丸い鏡の前に、歯ブラシが入ったコップと歯磨き粉。それらは逆さまになった「AIR JORDAN 1」のフラットソールに乗っている。よくよく見ると、歯ブラシが突き刺さったコップのなかにはコーヒーも注がれている(!)。アーティスト・玉山拓郎は「愛すべきアメリカへのオマージュ」として、この作品を制作したという。

玉山は、ミニマルな造形と消費社会のアイコンを駆使した作品で知られるアーティストだ。なかでもヴィンテージ感があって、しかもチープなアメリカ社会の産物を、彼は好んでモチーフにする。原色の派手なネオンサインやB級感あふれる日用品は、日本人もよく知る“80年代アメリカ”の雰囲気を彷彿とさせる。それらは古き良きカルチャーのシンボルでもあるが、同時に「世界の行き止まり」を感じさせるイメージでもある。

「人間がいなくなって物だけが残ったような、終末的な世界観に惹かれるんですよね。とはいえ、ディストピアを望んでるわけではないし、消費社会の行く末を案じてるわけでもないです。ただ、こういうデカダンなイメージのなかに、現代の空気と同質のものが見えるような気がします」。コップにプリントされた「IHOP」は、アメリカで最もポピュラーなパンケーキダイナーの名前。なるほど、玉山が惹かれてやまない「アメリカ」への入り口は、今回の作品にもちゃんと用意されているようだ。

2019年夏にロサンゼルスで行った展示「Takuro Tamayama and Tiger Tateishi」(Nonaka-Hill)会場外観。「空間的な絵画行為」とも評される、コンポジションやライティングを軸としたアプローチも玉山の特徴のひとつ
Photo: Takayoshi Nonaka-Hill
Photo courtesy: Nonaka-Hill

「普段の制作でも既製の日用品をよく使います。既製品には流行り廃りがあったり、時代や地域の特定できる要素が多かったりします。要するにクセが強いんですが、そのなかからできるだけ普遍的な要素を取り出してみたいとも思っていて。するとそれは色とかフォルムとか、すごく単純な要素になる。今回のAIR JORDAN 1の場合も、コンテクストというよりは色とフォルムに着目してセレクトしています。AIR JORDAN 1をミニマルな彫刻として捉えているといった感じでしょうか」。

「スニーカーは日用品のなかでも、とりわけ存在感があるアイテムです。AIR JORDAN 1はとくにそうですが、かなり緻密に設計されたプロダクトでもあるし、特定のファッションやカルチャーを連想させることも多い。でも今回は、そういうつながりを一旦保留にして、AIR JORDAN 1をまったく違う場所に接続しようとしました。フラットなソールを『台』に見立てたり、オールホワイトの外見からは『白いセラミックに演出されたサニタリーの清潔さ』を連想しました。コップに「IHOP」って描かれていますよね? HOPはご存知の通り“片足で跳ぶ”という意味になります。だからAIR JORDAN 1も片足しか使っていない。そんな言葉遊びにも気づいてもらえたらおもしろいかも」。

遠いのに身近な、アメリカという場所

玉山がコラボレーションしたシューズは「AIR JORDAN 1 MID」。1985年に発売されたマイケル・ジョーダンのシグネチャーモデルにして、シリーズの原点となった一足だ。AIR JORDANといえば、ジョーダンのシルエットをかたどった「ジャンプマン」のロゴを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、これが使われるのはAIR JORDAN 3からのこと。AIR JORDAN 1にはピーター・ムーアがデザインした通称「ウイングロゴ」があしらわれている。

80年代から現代まで、日本のカルチャーシーンとAIR JORDANシリーズは切っても切り離せない。NBAやジョーダンの名を一躍ポピュラーにしたことは言うまでもなく、スニーカーブームやスケートボードカルチャー、ストリートファッションに与えた影響も計り知れない。そんな伝説的シューズを作品に取り入れるにあたり、玉山が注目したのはAIR JORDAN 1のフォルムだった。オールドライクなコートシューズらしいフラットな底面。地面に対する安定感を約束するような平らかなソールを、彼はあろうことかひっくり返してみせる。潔い白さがおあつらえ向きとばかりに、AIR JORDAN 1は洗面台の一部として宙吊りになる。このある種“実利主義的な”感覚こそ、彼のアメリカに対するイメージそのものなのだろう。

NIKE AIR JORDAN 1 MID/¥14,300

「今回の作品は、昨年ロサンゼルスで展覧会を開いたときの経験からインスピレーションを得たものです。僕らのアメリカ観を極々ざっくりいえば『あけすけで、おおざっぱ』という感じになると思います。もちろんこれは偏見だと思う一方で、こういうステレオタイプ化したアメリカのイメージも、いくらか的を射てる部分もあるなと。少なくとも僕がアメリカで知り合った人々や経験した物事には、そういう『チャーミングな極端さ』がありました。それは例えていえば“朝、コーヒーを飲みながら歯磨きをする”ような、理解しがたいけど愛すべき偏向でした」。

「口をゆすいだコップでそのままコーヒーも飲んでしまう」、いかにも彼の愛するアメリカB級映画のワンシーンにありそうな情景だ

高級なものがホンモノじゃないアーティストが考えるリアリティ

「ハイアートが大衆文化やサブカルチャーを軽視する感じはいまだに残っていますよね。アーティストがファッションブランドや広告とコラボレーションすることは軽薄で不純だと思っている人は少なくないと思います。僕もどちらかといえば、そうやって色モノ扱いされている感じはありますが(笑)。ただ、本来そこに隔たりをつくる必要はまったくないですよね。アートも、ストリートカルチャーも、ファッションも、もっとシームレスにつながったらいいと思っています。混ざり合うんじゃなくて、複数のものが同格にあるっていうのがいい。そういう状態が豊かでいいなって思うんです」。

そう話す玉山に、これまでに影響を受けたものはなにか聞いてみた。「ハリウッド映画が好きなんです。小さいときから今まで、ずっと観て育ってきたから影響は大きい。ヘンな話、渋谷よりもロサンゼルスのほうが身近に感じるくらいです(笑)。不思議ですけど、そっちのほうがリアリティを感じる。だから、去年初めてロサンゼルスに滞在したときは不思議でした。自分が身近に感じてきたものの“元ネタ”がそこかしこに散りばめられていて、初めてなんだけど、初めてな気がしなかったから」。

空間自体を作品化する玉山にとって、設置する場所も重要。セレブリティのバスルームをイメージしてセレクトされた空間は、渋谷の神宮前にあるアートスペース「BLOCK HOUSE」

また意外にもホラー映画が大好きだという彼は、さらに興味深いことを語ってくれた。「アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』はとくにすごい。恐怖を感じるというより、恐怖を演出する装置としてすごくよくできてるなって感激したんです。“つくりもの”として優秀というか。考えてみれば、“つくりもの”が実感を生み出すって不思議なことですよね。“つくりもの”からリアリティを生み出す営みには共感するところがあります。僕が卑俗で軽薄なモチーフを好んで使うのは、それが紛れもなく“つくりもの”だからです。空疎と思われがちなものから、人間のリアルが立ち上がる。そんな瞬間に立ち会いたいなって思うんです」。

「つくりもの」のほうにリアリティを感じる――。たしかに、そうかもしれない。自分たちのライフスタイルが「つくりもの」の組み合わせであるとはいえ、それは紛れもなく私にとっての「リアル」だ。資本主義以後を生きる私たちのリアリティとは、そういうものなのかもしれない。ずっと身近で、まったく異質なアメリカンカルチャー。玉山は、その魅惑と不可解のあいだで自分のリアリティを確かめようとしている。洗練されていることだけが、素晴らしいことではない。むしろ人間の本質は、ちょっと安っぽい“B級”感のなかにこそ見えたりする。彼の作品に人の気配はないが、しかしたしかなヒューマニズムに貫かれている。

Profile

玉山拓郎(たまやま・たくろう)

1990年岐阜県生まれ。愛知県立芸術大学卒業後、2015年に東京藝術大学大学院修了。近年の主な展覧会に、「開館25周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について / 光をともして」(豊田市美術館、2020)、「VOCA展2020」(上野の森美術館、2020)、「Euphoria」(TICK TACK、アントワープ、2019)、「The Sun, Folded.」(OIL by 美術手帖、2019)、「Takuro Tamayama and Tiger Tateishi」(Nonaka-Hill、ロサンゼルス、2019)、「思考するドローイング」(500m美術館、2019)、「Dirty Palace」(CALM&PUNK GALLERY、2018)、「ASSEMBRIDGE NAGOYA 2016 パノラマ庭園 -動的生態系にしるす- 」(MAT Nagoya、2016)など。

Instagram @takurotamayama

Gallery Information

BLOCK HOUSE

オフィス、カフェバー、そして2つのギャラリーからなる複合型スペース。2つのギャラリーでは展覧会やイベント、ファッションの展示会からライブパフォーマンスまで幅広いイベントを開催。玉山の展示(タイトル未定)も2020年12月に開催予定。

東京都渋谷区神宮前6-12-9

TEL: 03-6318-2003

開館時間: 展示によって異なる

休館日: 展示によって異なる

http://www.blockhouse.jp

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