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Shoes × Culture

アート・オブ・シューズスタイリッシュで窮屈な現代に「余裕」を ― PUMA FAST RIDERの大胆さから産まれたアートの“怪物”

Artwork Makito Takagi
Photography Ryosuke Misawa
Text Sosuke Misumi
Edit Hayato Narahara
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN)

オレンジの壺に大きな目が2つ。時限爆弾のコードと「23:59」を表示するタイマー、そして見覚えのあるスニーカー。アーティスト・高木真希人によって生み出されたこの不思議なクリーチャー、“彼”はいったい何者なのか?! シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第6弾。

高木のペインティングは、何とも言いがたい奇々怪々なキャラクターが主役だ。ちょっとレトロな感じがするし、海外のアニメーションのような雰囲気もある。暗がりでフラッシュを焚いたようなライティングで浮かび上がるキャラのシルエットは、いかにも劇的な感じがする。「でも、特にストーリーとか、特別な個性を設定して描いてるわけではないんです。シチュエーションや抽象的な形が大事で、そこに『眼』が入っているだけなんですよ」と高木はいう。

ハイアートの高尚なカンジは、いってしまえば近寄りがたさでもある。意味ありげな風景画も、コンセプチュアルな抽象絵画も、イマイチよくわからない。それと比べると、高木のペインティングには親近感がある。その理由は彼のいう通り、中身がないからなのかもしれない。見えない丸や三角の組み合わせで分割された画面、その中にやけにデフォルメの効いたキャラクターが1体だけ描かれる。よくわからないヤツだけど、ひとりぼっちの存在は気になるものだ。だからこそ、こちらとしては中身のない彼らに「中身」を与えたくなる。想像力を働かせて、意味を探ったりしてしまう。そういう引力が、高木作品の親近感の正体なのかもしれない。

フラッシュに照らし出されても「きょとん」と無防備な佇まいに、独特な愛嬌が漂う。さりげなく据え置かれたせっけんには「ゑべ世(ABC)」のギミックも

おおげさで滑稽、でもすごく良いデザイン

高木がモチーフに選んだのは、ドイツ発祥のグローバルスポーツブランド・PUMAの歴史的な一足「FAST RIDER」だ。1980年にリリースされたFAST RIDERは、当時画期的であった軽量設計と最新のテクノロジーを採用したランニングトレーナーとして一躍話題となった。2020年モデルでも、オリジナルを忠実に再現した超軽量アッパーとアイコニックな「フェダーバインソール」は健在だ。舗装路を軽快に走るための軽さと通気性、優れた衝撃吸収性をそなえたレジェンダリーなデザインは、まさに80's PUMAの金字塔というべきだろう。

PUMA FAST RIDER SOURCE/¥9,900

そんなFAST RIDERのフェダーバインソールが気になったという高木。「こんな大胆なデザイン、なかなかできないですよね。挑戦的だと思います。今見るとすごく大げさなイボイボなんだけど(笑)、でも当時はこれがいちばん機能的で、しかもかっこよかったんですよね。80年代のアグレッシブさというか、勢いというか。そういうエネルギッシュな感性がデザインに反映されてる感じが、すごく魅力的に思えますね。一方で、そのおおげさな感じは冷静に見返すとおもしろかったりもします。そんなある種の滑稽さと凄さが融合してるところが『80年代だな』って感じがして、僕は好きですね」。

普段の制作でも、高木は1980年代のクルマや電子機器のデザインからインスピレーションを得ることが多いという。「80年代のクルマのカタログを見るのが好きなんですよね。手描きなんだけど写真みたいにリアルに描こうとしてる。東南アジアの映画ポスターみたいな感じですよ。写真よりも陰影が大げさだから、妙にギラついたハードボイルドな仕上がりになっちゃうのがおもしろい(笑)。2020年から見ると、たしかにヘンに過剰でチープな印象なんだけど、でも今の僕らにはない大胆さがあります」。

高木作品の特徴的なライティング表現は、こうした過剰なコントラスト感覚からもインスパイアされている

自宅兼アトリエは、照明を最大にするとギャラリーと同程度の明るさにまで調光が可能。手前に大量に重ねられた休刊前の『STUDIO VOICE』など、古い資料も数多く所蔵

窮屈な時代に「余裕」を

「今のご時世って、最適なものばかりが求められるじゃないですか。必要なものを必要なだけ備えていて、シンプルでスタイリッシュなものがウケる。その素晴らしさはわかるんだけど、でも僕らはどこかでそれに縛られすぎてないかなって思うんです」。

なるほど、そうかもしれない。今の世の中、何にでも「答え」がすでにある。「これがイチバンいいんですよ」というレコメンドやティップスはとても助かるけれど、そのせいで大胆になれない、アプローチが消極的になりがちな自分もいる。高木は80年代という時代に今の時代にはない大胆さをみる。「リソースもエネルギーも有り余ってた。だからなのかはわかりませんが、『余裕』を感じますよね」。

アーティストとして活動している高木だが、過去に会社員として勤めた経験がある。一般企業のインハウスデザイナーとしてデザインワークを担当していたという。「凝ったデザインを求められるような業界ではありませんでした。それよりも、成果物がちゃんと使えて、わかりやすく人に伝わることが大事で。特段、アートに何かできる余地が多いわけではなく、日々起こる問題にスピード感を持って対処することの方が重要、というような業界です。でも、その目まぐるしい業務の中でも少し気を利かせてデザインすると、上司や同僚が思いのほか喜んでくれて、成果物の取り扱い方も変わっていくのが実感できたんですよね。月並みな言い方かもしれませんが、やっぱりアートには人を動かす力があるんだなって思ったんです」。

必要最低限を超えた「+α」が人間に躍動をあたえる。その+αこそアートであり、高木が「余裕」と呼ぶものなのかもしれない。窮屈な時代だからこそ、それに「対抗する手段」が必要だと高木はいう。「作品をつくって発表することは、社会に対してエネルギー弾をつくって飛ばすってことに似てますよ。キャラクターにたくさんの『もの』を持たせるのは、エネルギーをバンバン発散していってほしいからです。その余剰や余裕でもって、誰かを動かしてほしいなって」。

生けられた一輪の花、コードが飛び出た古めかしいデジタルウォッチ、グラフィティ風の落書き。その構図含め「キャラクターが世の中をひとり歩きしていけるように持たせてやる“武器”のイメージ」

生をエンパワメントしていく「普遍的な何か」を表現していきたい。そんな思いで高木は、80年代よろしく“妙にギラついた”キャラクターたちを描いている。彼らのように異常で、過剰で、エネルギッシュな存在が、縮こまった社会には必要なのかもしれない。今回の作品にもう一度戻ってみよう。時計に表示された時刻は「23:59」。次の瞬間、もっとも大きな変化がおとずれる時刻だ。「00:00」から始まるのは「明日」。アートはたしかに、人を前向きな気持ちにさせてくれる。

Profile

高木 真希人(たかぎ・まきと)

1986年生まれ、静岡県出身。2010年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。2011年まで表現集団「オル太」在籍。普段凝視することのない深層心理や異界などの“あちら側”を意識させるモチーフと作品のもつ世界観は、高木の技術の高さにしっかりと裏打ちされたもの。暗闇の中でフラッシュを使い、カメラで偶然撮影されたようなクリーチャーたちを描いていたが、近年は従来の“スナップショット” シリーズに加えて、光の描き方を変えた新シリーズを発表している。

http://makitotakagi.web.fc2.com/hermitstudy/top.html

Instagram @makitotakagi

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