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Shoes × Culture

アート・オブ・シューズ自分らしく生きてますか? ― モビールに大胆アレンジされた往年の名作・CONVERSE ALL STARから漂うアイロニー

Artwork Keeenue
Photography Isamu Ito
Text Sosuke Misumi
Edit Hayato Narahara
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN), Takuro Kawashima

ポップなカラーのモビールがふわふわと動いている。よく見ると、人が股のあいだから顔を出しているような形をしている。黒いボトムスの裾からぶら下がっているのは、CONVERSE「ALL STAR」。名作スニーカーをポップに作品化したKeeenueが、そのモビールに忍ばせた“裏テーマ”とは?! シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第7弾。

Keeenueは、タブローのペインティングから壁画制作まで幅広く手掛けるアーティストだ。アシッドカラーを基調に、斬新なデフォルメを効かせたモチーフは彼女のアイコンになっている。ABC-MART GRAND STAGE GINZA/HARAJUKUの壁画やNIKEとのコラボレーションなど、彼女のクリエイションを目にした人はきっと多いはず。「ブランドや企業からの依頼で制作することが多いですね。自分のスタイルを最大限尊重していただいて、自由にやらせてもらってます」。

GRAND STAGE GINZA/HARAJUKUファサード。店内至るところに展開される広大な壁画は、公開から2年たった今でも撮影スポットとして人気を集めている

多摩美術大学のグラフィックデザイン学科で学んだKeeenue。在学中から友人とグループ展を開催するなどアグレッシブに活動したが、それでもアーティストとして自立するにはどうしたらいいかわからず悩んでいたという。そんな彼女が師事したのが、伝説のグラフィックデザイナー・田名網敬一だった。

「大学にいたころは、アーティストとして活動していく方法を模索していました。田名網さんから学んだことはいまも生きていますね。もちろん手取り足取り教えてもらったわけではなく、彼の仕事ぶりを近くで見ながら『こういう場合はこうやってるんだ』と具体的な知識を得ていったという感じです」。

渋谷の神宮前にあるアートスペース「BLOCK HOUSE」4Fテラスにて

「田名網さんには、学生のときから作品を見てもらっていました。『人と違うことをしないとダメよ』と諭されたのがターニングポイント。それまでは具象的な挿絵に近いイラストを描いていたんですが、より抽象度の高いスタイルに変わっていきました。『他人に重宝がられるイラストを描くよりも、自分の作品を作っていったほうがいい』という田名網さんのアドバイスが、今の自分の土台になってるなって思います」。

吊るされるイメージ? ALL STARがモビールになるとき

今回Keeenueが制作した作品は、動く彫刻=モビールだ。最近はペインティングにとどまらず、レリーフやソフビなども手掛ける彼女。モビールも、その新しいチャレンジのひとつだ。彼女がチョイスしたのは、誰もが知っているスニーカー「ALL STAR」。創始者、マーキス・M・コンバース氏の名前を冠したブランド、CONVERSEの金字塔だ。キャンバスのアッパーにラバーソール。突き詰められたデザインは、もはやシンプルというよりミニマルといってもいいかもしれない。

「今回は絵にするんじゃなくて、スニーカーそのものを作品の素材にしたいと思っていました。ALL STARって、なぜかフェンスや電線に『吊るしてあるイメージ』ありませんか? シューレースで何かからぶら下がっているイメージが、吊ってあるモビールとリンクしたことが今回の制作のきっかけです」。

KeeenueといえばNIKEのスポーティーなイメージもあるが、今回はそれをくつがえす意外なチョイス。実は普段からCONVERSEを愛用しているのだとか。アイコニックな存在感のあるソールは、モビールの安定を生み出すのに一役買っている。なめらかな動きと絶妙なバランスは、パタパタ鳥のおもちゃを買って構造を研究した成果だという。

CONVERSE ALL STAR US COLORS HI/¥7,700

「モビールのモチーフになっているのは人間です。コミカルな感じでかわいいんですが、実はそれだけではなくて。今回の作品のもうひとつのイメージソースは『あやつり人形』でした。最近、世の中の多くの人たちは操られてるんじゃないかって思うことがあるんです。人間同士の関わり方が大きく変わっていっている最近は、とくに」。

わたしとあなたが自分らしく生きるために

「生き方は自分で決められるし、思い通りにできるはずなのに、他人に合わせたり気を遣ったりして、ついつい自分の本心を隠したり曲げたりしてしまう。好きな仕事ができるはずなのに、嫌いな仕事を我慢してやっている人もたくさんいますよね。でも、本当はもっと自由でいいんじゃないかなって思うんです。

たしかに社会の変化は急激だったけど、それに対応しようとするあまり、みんなマイペースじゃなくなってる。それって本当にいいことなのかなって。ちょっと考えてほしくて、こっそり作品の裏テーマにしました」。

ネックレスに見立てたチェーン部分を下に引くと、“顔”が上下に動く。青くウェーブするのは髪。耳には“ピアス”も

かわいいだけのものは好きじゃない、とKeeenueはいう。親しみやすいポップな見た目とは裏腹な、チクッと刺さる皮肉。光と影、アンビバレントな気持ちを投影できる自由さも、彼女の作品の持ち味だ。たしかに、世の中操られている方がラクだし、自分の好きなように生きるためには多くの制約を越えていかなければいけない。どういう生き方が自分にとってベストなのか。そんなクエスチョンが投げかけられている気がする。

ちなみに、ALL STARが「バスケットボールシューズ」なのはご存知だろうか? Keeenueがチョイスしたトリコロールライン入りのモデルは、1936年のベルリンオリンピックのために作られたものといわれている。このオリンピックは、バスケットボールが初めて公式種目となった記念すべき大会でもある。一方、2020年の東京はといえば、オリンピックの盛り上がりは消え去り、社会全体が目標を見失ったかのように元気をなくしている。しかし、そんなときだからこそ、もっと自分本位に自由に生きた方が楽しいのでは、と彼女は考える。

「別に危機感を煽ったりするつもりはないんですけどね(笑)。ただ、自分のなかに起こった違和感にはちゃんと向き合いたいし、思ったことは表現していきたいなって。純粋な抽象表現もかっこいいけど、私はもっと入りやすい入り口として、ポップで具体的なモチーフを選びます。何でもいいんですが、とにかく作品にはみんなが気になるようなフックを仕込むようにしています」。

「動き、おもしろくないですか? (笑)」と自画自笑? する場面も。動画はGRAND STAGE公式Instagram(@abcmart_grandstage)にて公開中

「興味を引くもの、わかりやすいものを入り口にすることで、その先に行ってもらうことができる。アートってそういうものなんじゃないかな。今回の作品も、かわいい見た目の奥に、私なりのメッセージを込めたつもりです。こういうちょっとダークな部分は、クライアントワークではどうしても出しにくいんですが(笑)、今回は出せてよかったですね」。

ダークなアイロニーは、前向きな素直さに由来するもの。彼女の真摯な問いかけに、あなたならどう答えるだろうか? かわいいだけがアートじゃない。作品を介して、インタラクティブに「語り合う(Converse)」ことこそアートなんじゃないだろうか。

Profile

Keeenue(キーニュ)

1992年、神奈川県藤沢市生まれ。2016年に多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。現在は東京を拠点に壁画制作やペインティング作品の発表、オリジナル商品のデザインなど国内外問わずさまざまな活動を展開。具象でありながら抽象絵画のような鮮やかな世界観は鑑賞者のイマジネーションを誘発しそれぞれの捉え方や気づきを与える。NIKE、Facebook、SHAKE SHACK、Sony Musicなど数多くのコラボレーションでも注目を集め、2018年にはABC-MART GRAND STAGE GINZA/HARAJUKUに巨大なアートワークを提供した。

https://keeenue.com/

Instagram @keeenue_

Gallery Information

BLOCK HOUSE

オフィス、カフェバー、そして2つのギャラリーからなる複合型スペース。2つのギャラリーでは展覧会やイベント、ファッションの展示会からライブパフォーマンスまで幅広いイベントを開催。

東京都渋谷区神宮前6-12-9

TEL: 03-6318-2003

開館時間: 展示によって異なる
休館日: 展示によって異なる

http://www.blockhouse.jp/

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