湿った黒い土、青々と茂る草花。寄せ植えの“鉢”になっているのは、Timberlandの「6-INCH BOOTS」だ。真っ白な動物のオブジェとともに神秘的な雰囲気を醸し出す。「自然と人間の関係性をアートによって捉え直していきたい」。そう話すのは、大小島真木・千賀健史・辻陽介。現在、3人はあるアートプロジェクトを共同企画中とのことで、今回の制作も3人の共作として行われた。画家、写真家、編集者、異なるパースペクティブが「一足のブーツ」をめぐって交錯する。シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第8弾。

今回3人がアートワークのためにチョイスしたのは、Timberland「6-INCH BOOTS」。街でもよく見かけるイエローヌバックのアッパーは、Timberlandの代名詞的存在だ。重厚な見た目はダテではなく、高い耐久性とトラクションを備えている。シームシーリングによる防水加工、アイレットの防錆加工など、長く使い込みたいユーザーには嬉しい細部へのこだわりも光る。この定番の一足にはアウトドアにおける足の保護、あらゆるコンディションに対応する耐候性をめざした、Timberlandのポリシーが詰まっている。

そんな6-INCH BOOTSが、なんと今回は“寄せ植え”のベースに。「“野生の地に踏み出すときに履きたい靴”を選びました」と話してくれたのは、自然をモチーフにしたダイナミックな絵画で知られる画家の大小島真木。ファッションアイコンとしてのTimberlandではなく、その原点とも言える“野生”との関係に注目したのは、なんとも彼女らしい。

画家であり、近年は陶器(これも土から出来ている)を用いたオブジェ作品も手掛けている大小島真木(左)と、コンセプトに応じたイメージ作りや撮影手法が特徴的な写真家、千賀健史(右)

土で充たされた靴の意味

大小島真木(以下: 大小島): 靴底の厚さが“獣の足”を連想させますよね。生きるという言葉のイメージとつながる要素が詰まっている。人類は生き延びるためにさまざまなツールをつくってきたわけですが、靴もそのひとつですよね。人間と道具と自然の関係性は、考えるととてもおもしろいんです。人間は土に育てられているけれど、靴底は土と足の間を隔てている。生きるということは、自然との距離の取り方を考えていくことでもあると思うんですよね。

大小島: アーバンカルチャーとも関わりが深く、同時にアウトドアにもルーツがあるTimberlandの存在感がおもしろいなと思って。土と身体を隔てる重厚な靴をモチーフにしながら、一方で“土を感じる”にはどうすればいいか。土と身体が結びつくようなイメージを作品化できないかと考えました。そこで生まれたアイデアが、土・植物・靴の共生圏として「Timberlandのなかで寄せ植えをつくる」というものでした。

シューズも獣の皮からできた“有機物”。有機的な共生圏のなかには、食虫植物「ウツボカズラ」も

ふと足元に目を配ると、動物を模した白いオブジェを中心に、木の枝が円を描くように並べられている。この「祭壇」も今回のアートワークの一部だ。「地面のなかでは常に何かが生まれ、何かが死んでいます。この祭壇は、神秘的な儀式にも似た、その生と死のサイクルを象徴するものです」。その奥には“祭壇画”よろしく、額装された写真がある。手がけたのは写真家の千賀健史だ。

右手に掲げられている写真は、なんと“布”に出力されている。ここからさらにその布を織り合わせ、今作を“まとう”衣服作品も構想中

千賀健史(以下: 千賀): そもそも大小島さんとの共作活動は、辻さんの紹介で自然物をモチーフにした彼女の作品を撮影させていただいたときに、作品をより視覚的に伝えるための撮影アイデアを提案したことから始まりました。いわば僕の役割は、写真によって、彼女の作品にもうひとつのレイヤーをプラスするという感じです。今回は写真のコラージュが可能とする“現実の拡張”によって、現在から未来へかけての共生圏としての意識の拡張を示しました。移動が制限されている現在からの解放という希望も込めたつもりです。

コラージュによって表現されるのは“拡がり”。根と幹、葉が垂直に“移動”していく植物とシューズの掛け合わせに、足を止めても、イメージや思考は拡がっていくというポジティブな着想を得たという

千賀: そういえば、作品撮影後に歩いて家に向かう途中、工事現場が目に入って。それでふと都市空間の地下に意識が向かったんですが、道路のアスファルトを一枚剥いだら、その下はずっと土なんですよね。

ハッとするような千賀の言葉に、もう一人のメンバー・辻陽介が反応する。

辻陽介(以下: 辻): 都市という場所は、他の生命に生かされているだけの人間が、あたかも自立していて自力で生きているかのように錯覚してしまうことができる場所だと思います。僕も、大小島さんや千賀さんだって、日々その錯覚に陥っている。例えば、スーパーで売られている魚の切り身から、水中で生きる魚をいちいちイメージなんてしない。それはある意味で仕方がないことでもあって、だからこそ、そうした錯覚が錯覚に過ぎないということを意識する契機を持つことが大事だと思うんです。そういう僕らなりの生活感覚に根ざした葛藤を、作品を通して追体験してもらえたらいいなと。

編集者の辻陽介。大小島と千賀を引き合わせた人物であり、プロジェクトにおいてはブレイン/スポークスマン的な役割も担っている

ネイチャーからアーバンまで踏破するために

辻: 靴は基本的に、横へ移動するためのプロダクトですよね。でも、今は世界的に横への移動にストップが掛かっています。ただそこで、僕たちはストップしてしまった、他者と繋がれなくなってしまったと悲観すべきかと言えば、そんなことはないと思っていて、むしろ普段忘れている“縦の線”に向き合ういい機会じゃないのかな、と思ったんです。靴は横へと歩み進めるためのツールであると同時に、足元を踏み締めるためのツールでもある。そして、僕たちの足元には「土」があり、またその「土」をうごめき、僕たちの生を支えている無数の生命がいます。それこそ植物は動かないけれど世界と常につながっている存在ですよね。だから、そうした「土」のものたちに侵食され絡まり合う靴のイメージをビジュアル化して提示することで、移動することに偏重しすぎている僕たちの生を見直すきっかけにしてもらいたいという思いもありました。

取材で伺ったのは東京・東久留米の秋田緑花農園。制作においても全面的な協力関係を築いており、あらゆる植物の状態を良好に管理しつつ、寄せ植えのプロデュースも行った

作品にはすべて土が充たされ、実際に植物を生育できる状態に整えられている

6-INCH BOOTSがマーケットに登場したのは1973年。ニューイングランド(アメリカ北東部6州の総称)の生活者や労働者のためにつくられたが、20年後にはヒップホップの台頭著しいニューヨーク・ストリートカルチャーのアイコンとなり、またたく間に世界中に広がった。そして1990年代から現在に至るまで、Jay-Z、カニエ・ウェスト、ファレル・ウィリアムスなど、そうそうたるスターたちに愛用されている。

Timberland 6-INCH PREMIUM BOOT WHEAT/N/¥26,400

Timberlandはときに労働者の力強い歩みを支え、またあるときはストリートのたくましい生を鼓舞するアイコンだった。アメリカの広大なウィルダネスや過酷な建設現場から、都市の路地裏、クラブのフロアまで。したたかに、地に足をつけて生きる人々の足元をTimberlandは支えてきた。

「アーバンとネイチャーが対立しているわけではない」と3人はいう。双方は地続きでもあり、表と裏でもある。人工物は自然のなかで人が生きるための知恵であるが、ときに害悪にもなる。一方、自然は人が生きていくためになくてはならないが、生身では太刀打ちできない。3人の問いは、次のようなものだ。「人間は双方の間を行き来しながら、最適な生のあり様を探す生き物なのではないか」。アーバンとネイチャーを越境するTimberlandこそ、この問いのアイコンとしてふさわしい。

Profile

大小島 真木(おおこじま・まき)

1987年東京生まれ。2011年女子美術大学大学院修士課程修了。2009年トーキョーワンダーウォール賞、2014年VOCA奨励賞受賞。2017年にはアニエス・ベー主宰による海洋調査船タラ号のプロジェクトに参加。主な個展に「骨、身体の中の固形の海。―植物が石化する。」(HARUKAITO、東京、2019)、「鯨の目」(パリ・アクアリウム、フランス、2019)「鳥よ、僕の骨で大地の歌を鳴らして」(第一生命ギャラリー、東京、2015)など。公開制作「万物の眠り、大地の血管」(府中市美術館、2018)。グループ展に、「Re construction 再構築」(練馬区立美術館、2020)、「いのち耕す場所」(青森県立美術館、2019)。瀬戸内国際芸術祭・粟島に参加。描くことを通じて、鳥や森、菌、鉱物、猿など異なるものたちの環世界を、自身に内在化し物語ることを追求している。

http://www.ohkojima.com/

Instagram @maki_ohkojima


千賀 健史(ちが・けんじ)

1982年滋賀県生まれ。大阪大学基礎工学部卒業。2017年1_WALLグランプリ、2019年Dali International Photography Exhibition The Best Emerging Photographer Award受賞など。 作品は主にリサーチをベースとし、身近なテーマから社会問題へと暗喩的なイメージを用いて制作されている。純粋な記録だけによるのではなく、問題が抱える複雑さを表現するためにさまざまなアプローチ を使うことから、飯沢耕太郎氏によりニューフォトジャーナリズムの旗手と評される。近年では手製によるダミーブック、及び少部数の自費出版も行っており、作品は主に海外のダミーブックアワードにおいて評価されている。

https://www.chigakenji.com/

Instagram @chigaa


辻 陽介(つじ・ようすけ)

1983年東京生まれ。編集者、ライター。早稲田大学在学中よりコアマガジンに勤務し、『ニャン2倶楽部』、コア新書シリーズなどを担当。2011年に性と文化の総合研究マガジン『VOBO』をウェブ上に開設。2017年からはフリーランスとして『STUDIO VOICE』、『BURST GENERATION』、『ヴァイナル文學選書』などの編集に携わり、1936年創業の老舗書店「芳賀書店」運営のwebメディア『HAGAZINE』では編集人を務めている。

https://hagamag.com/

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