競技であると同時に、音楽やファッションなどさまざまなカルチャーの交差点でもあるストリートスポーツ。オリジナリティのあるスタイルを持つために必要なのはトレーニングだけでなく、鋭い感性や確固たる哲学を持つこと。そんなストリートスポーツの一流選手たちのライフスタイルを探る。

今回のプレーヤーは、東京2020オリンピックのBMXレース女子日本代表の畠山紗英。幼少期からBMXに親しみ、10歳、11歳、13歳のときに世界選手権大会優勝。2019年のワールドカップランキングでは日本女子史上最高位の12位を獲得しているトップアスリートだ。周囲の期待を集めるオリンピアンは、まさかの大会延期となった2020年をどのように過ごしたのか。トレーニングのためにスイスに滞在している彼女を、オンライン取材した。

モチベーションの維持に苦戦した自粛期間

近年はトレーニングのために一年の大半の時間をスイスで過ごしている畠山。しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響で3月末にトレーニングセンターが一時閉鎖となり、日本に帰国していたという。他の選手たちと切磋琢磨することがトレーニングのモチベーションになっていた彼女にとって、あの自粛期間は辛い経験だったという。

「オリンピックが延期になったこと自体はプラスに捉えています。去年の夏よりも今のほうが速くなっている自信があるので。でも、日本に戻って一人でトレーニングしていた時期は、向かうべき大会やレースもなくて、モチベーションもパフォーマンスも下がってしまい辛かったです。がんばりたいのにやる気がでないし、体が動かない。

コーチがいて一緒に練習する相手がいるから、負けたくないという気持ちがその場で湧くし、身になる練習になるんだと思います。今はトレーニングセンターも再開してスイスに戻って来られましたが、あの状況は自分の力では変えられるものではなかったので、きつい時間でしたね」

予想外の試練を味わうこととなった自粛期間。精神的な負担を抱えるなかで、新たな習慣がその癒しになったという。

「あの時期は、料理に目覚めてました。料理をしている時間は無心になれるので好きです。一番作っていたのは、お母さんにレシピを教えてもらったバターチキンカレー。そこからインドカレーやタイカレーにハマっていったので、スイスに戻ってからも作りたかったんですが、寮にはキッチンがないので……。本当は毎日でもカレーの研究がしたいくらい」

オフの時間は、音楽とNetflix

トレーニングセンターは郊外にあるため、周囲に遊びに行けるところもなく、オフの時間はもっぱら自室で過ごす。そのお供になるのは、音楽とNetflix。幼少期から大人を圧倒する走りで周囲を驚かせてきた畠山だが、そのプライベートはどこにでもいる若者らしい時間を過ごしているようだ。

「『プリズン・ブレイク』 ※1にハマっていたころは、練習の無い日を丸ごと使って見ていましたね(笑)。アニメや漫画はほとんど見なくて、ギャング系、裏社会系のドラマや映画が好きなのかも。

音楽はトレーニング中に聴くことができないので、もっぱら移動中か部屋にいるときに聴いていますね。最近は日本のラッパーのMIYACHIが好きです。

ヒップホップを聴きだしたのは結構最近で、友達が教えてくれたCHEHON※2を聴いたのがきっかけだったかな。日本のレゲエMCなんですが、彼の『SAYONARA JAPAN』という曲の内容が、自分が海外に行くときの心境にぴったりで。毎回飛行機のなかで聴いてます。

中学生のころはワン・ダイレクションが大好きで、そこからお父さんやお兄ちゃんの影響もあって洋楽を聴くことが多かったですね。お父さんの車のなかではリンキン・パークやグリーン・デイがいつもかかっていて。

10代のころから週末はずっとトレーニングに費やす生活をしていたので、クラスメートともあまり遊べず、あの子はなにをやってる子なんだろう? って思われていたと思います。だけど、中学生のときに音楽の趣味が合う子と仲良くなって。彼女はいまでも連絡を取り合う親友です。競技で知り合う仲間とはまた全然違う関係ですね」

※1 プリズン・ブレイク:アメリカのFOXが製作し、2005年から放送されているサスペンスドラマ。主人公のマイケル・スコフィールドが、無実の罪で逮捕され死刑宣告をうけている兄リンカーンを助けるために脱獄を計画する物語。
※2 CHEHON:韓国籍、日本育ちのレゲエミュージシャン。2010年に発表した『SAYONARA JAPAN』は、ジャマイカへ武者修行に向かう決意を歌にした一曲。

今も昔もBMX一色。それでも楽しさは色あせない

物心ついたときから、楽しい思い出も辛い思い出も、家族との時間もそのすべての瞬間にBMXがいると言っても過言ではない生活をしてきた畠山。家族旅行ですら、ストイックな母の監督のもと、地方や海外のBMXコースを目的地にして、観光はその合間、という具合だったそうだ。そんな競技一色の人生を過ごしてきた畠山だが、これまでBMXに対して気持ちが冷めたり、競技から離れたいと思ったりしたことは一度もないという。

「いつも取材を受けるときに、趣味はなんですか? と聞かれると困ってしまうんです……。BMX以外にBMXと同じくらい熱中できるものを持ちたいとずっと思っているんですが、見つからなくて。

BMXに対してつまらないとか飽きるという感情が湧くこと自体がイメージできないですね。大会でいくら勝っても、自転車でジャンプしたりすること自体が好きなので。BMXはだいたい20代後半で現役を引退する人が多い種目なのですが、私もそれくらいに退くことになるんだろうと思います。だけど、現役をやめても趣味として続けたいと思ってます。なぜ続けられるんですか? って聞かれても……。楽しいから、としか答えられないですね(笑)」

ひとつの競技に対して無垢な情熱を持ち続けられる。そのこと自体が彼女の才能の最も偉大な点なのだろう。インタビューに力まずゆったりとした喋り方で答える様子にも、そんな彼女のしなやかな真の強さを感じた。

BMX以外のことには一見こだわりのなさそうな彼女だが、ファッション、特にスニーカーにはこだわりがあり、現在は日本から持ってきたお気に入りの4足を愛用しているという。

「スニーカーマニアというわけじゃないんですが、プライベートで履いているスニーカーはどれもすごく気に入ってるものばかりです。機能性よりもまずはデザインを見て選んでいます。

最近はInstagramでアイテムを探すことが増えて、新しいスタイルに触れることも増えたんですが、良いと思った服や靴が全部自分に似合うわけじゃないということにも初めて気がついて(笑)。スニーカーは主にブラック系を買うことが多いですね。

VANSはベルクロが付いているタイプが好きで、今は2足持ってます。デザインが可愛いし、履きやすいですよね。

NIKEの『VAPORMAX』は、とにかくデザインに惚れて買いました。独特な履き心地も気に入ってます」

(左上から時計回り)
ON Cloud All Black
VANS OLD SKOOL VELCRO
VANS PRO SKATE
NIKE VAPORMAX

東京2020オリンピックが予定通り開催されれば、本番まで約半年。不安定な世相に翻弄される日々だが、畠山に覚悟のほどを尋ねると、なんとも腰の据わった答えが帰ってきた。

「残された時間は、毎日やるべきことをやって、後悔のないようにするだけですね。今より速く走るためにやらなくてはいけないことはたくさんあるので、それをひとつひとつこなしていって、準備を固めていきたいです」

大会で見る華やかな姿と同じくらい、地道な日々を粛々とこなすその姿の力強さに勇気づけられる。オリンピックがあろうとなかろうと、彼女の活躍を見守っていきたい。

Profile

畠山 紗英(はたけやま・さえ)

1999年生まれ。2人の兄の影響でBMXを始めた。小学生の時には国内のレースで優勝を重ね、10歳を過ぎてからは年代別の世界選手権で相次いで優勝。大きなジャンプを武器に2019年のワールドカップで決勝進出を経験するなど国際大会で活躍している。

Instagram @saehatakeyama

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