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Shoes × Sports

ストリート・マインドインラインスケートの絶対的王者が語る、音楽と競技の関係性

Photography Keisuke Tanigawa(interview), Satoshi Saijo
Edit & Text Kunihiro Miki

競技であると同時に、音楽やファッションなどさまざまなカルチャーの交差点でもあるストリートスポーツ。オリジナリティのあるスタイルを持つために必要なのはトレーニングだけでなく、鋭い感性や確固たる哲学を持つこと。そんなストリートスポーツの一流選手たちのライフスタイルを探る。

今回のプレーヤーは、エクストリームスポーツの最高峰『Xゲームズ』をはじめとする数々の世界大会で世界タイトルを持つプロインラインスケーターの安床武士。兄の安床エイトとともに小学生からインラインスケートを始め、9歳で世界大会に初出場。16歳のころに『Xゲームズ』で初優勝して以降、兄弟2人で獲得した世界タイトルの総数はなんと100以上。現在は選手として大会に出場するほか、地元神戸でスケートパークを運営しつつ、ショープログラムへの出演やエクストリームスポーツとライブを組み合わせたフェス『ROLL IN ROCK』の主催など、多岐にわたる活動を行なっている。

インラインスケート界の絶対的存在として世界中にファンを持つ彼だが、20年以上のキャリアのなかでモチベーションを維持できたのには、音楽の存在が大きかったのだという。安床武士が語る、滑ることと音楽の関係性とは?

スケートパーク×ライブハウスの夢

一家で運営する"g"スケートパークは神戸の六甲アイランドにあり、安床武士もそこを拠点に長年活動をしてきたが、去年になって神奈川県の川崎市に越してきた。ここにきて首都圏を活動拠点にした最大の理由は、「スケートショーを行うライブハウス」の実現のためだ。これまでにないコンセプトだが、そこには下の世代のスケーターたちが活躍できる新しい場を作りたいという思いがあった。

「インラインスケートやスケートボードには定期的にショーが開催されている現場がないんです。大会やショー、最近ではYouTubeで僕らに興味を持ってくれる人も多いですが、そういう人たちに、次はここでやるから来てねと言えるものがない。そういう場所があればスケーターにファンもつくし、競技間での交流も生まれてスケート業界の成長につながるはずなんです。今は活動の仕方も多様化していて、大会に出て成績を残すことだけがすべてじゃない。

インラインスケートシーンはいつまでも僕ら安床兄弟が看板として立っているわけにはいかない。もちろん、僕らだって簡単に看板を下げるつもりはないですよ(笑)。でも、僕らの次を担う人を育てるには、頑張っている若手が僕らを追い抜いていける環境を作る必要があると思って」。

インラインスケートはオランダで生まれたものだが、競技としてはアメリカで発展した。スケボーと同じく西海岸のカルチャーで、そのスタイルは音楽とは切っても切り離せないものだ。

「僕が仲間と主催している『ROLL IN ROCK』は、音楽とスケートが50/50のバランスになっているイベントがやりたくて始めたんです。音楽とスポーツのイベントって、どちらかがおまけになってしまっていることが往々にしてあるじゃないですか。

音楽とスケートが合わさるかっこよさを知ってほしいんです。良い滑りをするために音楽は欠かせないですよ。最近の大会では自分が滑るときに好きな曲をDJにリクエストできることはなくなってしまいましたが、それでもみんなイヤホンで曲を聴きながら滑っていますよ。常に一人で自分と戦っている競技ですから、音楽からモチベーションをもらっているスケーターは本当に多いです」。

RIZEとの出会いと、ライブで得たもの

練習や仕事がないときはスタジオに入って趣味のドラムの練習するほど音楽に深い愛を持つ。そんな彼が音楽の魅力に目覚めたきっかけは、あるバンドとの出会いがすべてだった。

「小、中学生のころにアメリカの大会の会場でかかっていた音楽は体に染み付いていて。グリーンデイとかペニーワイズとか、1990年代の西海岸のメロコアとスケートの融合を現地で体験していたおかげで、ロックが自然と好きになったんだと思います。

そして、SONYのCMで見たRIZEとの出会いがとにかく衝撃的で。そこで使われていた『Why I'm Me』(2000年)という曲はその次の大会で自分が滑るときにかけてもらって。彼らの音楽に夢中になりました。そのうち知人づてにメンバーの皆さんを紹介してもらって、中学2年生のときに当時大阪にあったベイサイドジェニーというライブハウスでRIZEと山嵐、宇頭巻(現UZMK)が対バンするイベントに誘ってもらったんです。場の雰囲気に緊張しすぎてライブの内容は全く記憶にないんですが(笑)。それ以来、RIZEの皆さんとの交友関係は続いています。ドラムをやっているのも、元々は金子ノブアキさん(RIZEのドラマー兼俳優)に憧れていたからなんです」。

「スケートのモチベーションが下がったときはバンドのライブに行くと刺激がもらえる。彼らがいかにその日の一本のライブに高い意識と熱量を持って臨んでいるかを知っているから、そのすさまじさに負けないようにしようと思えるんです。

ショーでのパフォーマンスは大会と違って成績に残らないからなあなあでやってしまう人もいますが、初めて僕を見た人のなかでは、そこで見たものが安床武士のすべてになってしまう。人前でやるときは必ず全力で、ということはバンドから学びました」。

取材当日は愛車であるCan-Am Rykerの三輪バイクで来てくれた

「普段の取材はインラインスケートのシューズを履いていることが多いので今日はお気に入りのスニーカーが披露できて嬉しい」と、最近購入したというBILLY’S ENTとPUMAのコラボスニーカーSTYLE RIDER KATANAを着用

「正解なんてない」を伝えていきたい

プレーヤーとしてだけでなく、シーンの未来を担うキーマンとしても注目が集まる安床武士。今後も音楽とともに「より自由に滑る」ことの伝道師として活動を続けていくつもりだという。

「スケートをする上で正解なんてないんだよ、ということをもっと伝えたいですね。大会のための滑りもショーのための滑りもカルチャーとしての滑りも、すべて同じでいいはず。人がやっていないことをやって大会で評価される、ショーが盛り上がる、そしてそれが自分のオリジナルなスタイルになる。インラインスケートでは安床兄弟の滑りが正解、みたいな風潮がありますけどそれは違うよ、と。やりたい滑りを突き詰めたら周りが正解と認めてくれただけで、本当は正解なんてないんです。 スケートはやりたいことをやって個性を爆発させている人たちが集まっているのが魅力の競技なはず。まわりが作った正解をなぞっていても意味がないのに、若手の多くがそういう価値観を押し付けられて悩んでしまっている。もっと自由で良いんだ、ということをスケートと音楽を融合させた現場で伝えていきたいですね」。

Profile

安床武士(やすとこ・たけし)

アグレッシブインラインスケート・ハーフパイプ種目の現役世界チャンピオン。アクションスポーツ最高峰の大会『X ゲームズ』で、3度のシルバー、2度のゴールドメダル。世界ランキングでも4度のチャンピオンに輝いた。

世界で20人しか出場できない『X ゲームズ』に11歳で出場、ギネス記録にも認定。9月26日(土)20時 〜 21時にハーフパイプなどのライブ配信ショーケース『RAMPAGE JAM Vol.1』を開催。安床武士YouTubeアカウントで配信される

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