競技であると同時に、音楽やファッションなどさまざまなカルチャーの交差点でもあるストリートスポーツ。オリジナリティのあるスタイルを持つために必要なのはトレーニングだけでなく、鋭い感性や確固たる哲学を持つこと。そんなストリートスポーツの一流選手たちのライフスタイルを探る。

今回インタビューしたのは、東京2020オリンピックのスケートボードパーク女子の日本代表を目指しているスケーターの手塚まみ。VANSのライダーでもある彼女は、高校3年生で出場した2019年の世界大会『バンズパークシリーズチャンピオンシップス』で3位に入った日本のトップスケーターだ。世間からの注目と期待を背負いつつ、彼女が真摯に向き合うのは勝つことより楽しむこと。コロナ禍で立ち返ったという自らの原点や、日々の過ごし方について語ってもらった。

渡米中止、地元パークで取り戻したリスペクトの気持ち

2020年の春に高校を卒業し、晴れてアメリカ生活をスタートさせるはずが、新型コロナウイルスの影響で泣く泣く断念。この一年は、地元の滋賀県彦根で過ごした。

高校生活は楽しかったが、進学校だったため大会出場のために授業を休むのも一苦労だったという。先生からは「国体にないスポーツでしょ?」と言われたこともあった。「オリンピックの予選なんです」と伝えてやっと理解してもらえたという。スケートボードというスポーツを理解してもらえない場面が、日本ではまだ多いことを痛感してきた手塚まみ。

それでも、なんとかスケーター活動と勉学を両立させ、手に入れたはずだったアメリカでの新生活。卒業後すぐに渡米したが、三週間も経たないうちに街がロックダウンになり、スケートパークもすべて閉鎖。地元でのトレーニングに切り替えるために帰国した。

「本当だったらアメリカでオリンピックに向けてのトレーニングを積みながら、映像の勉強もする予定だったんです。やっと勉強から解放されて、思い切り好きなことに打ち込もうと思っていたので、残念でした。

でも、久々に地元のパークでまた滑るようになって、友だちにもいっぱい会えたりして、結果的にこの一年はとても良い時間になりました。国際大会などでの新しい出会いも大事ですが、自分のホームで時間を過ごすことの大切さがよくわかりました。

家から車で30分くらいの竜王町というところに、77歳のおじいちゃんが作った手作りパークがあるんですよ。世界中を旅してきた現役カイトサーファーなんですけど、街にひとつ必ずパークがあるアメリカのカルチャーに影響されて、自宅の庭に作っちゃった。いまだに増築を続けているんです(笑)。ここは自分を競技モードからリセットできる場所というか、リラックスして滑れる大切な場所です」

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竜王町にあるSeiichiro Takanoの手作りパーク

コロナ禍前までは大会やそのための練習に追われる日々だったが、トレーニングの拠点を地元に移したことで、スケーターとしてのアイデンティティを再確認したという。

「技術的なレベルに差がある相手に対してもお互いの滑りを讃え合う気持ちっていうのは、大会のための日々では失われがちで。勝つために相手の失敗を願ったりしている自分がいたりするんですが、そういう気持ちは自分が思うスケボーとは違うなってずっと思っていました。

地元のパークにいるスケーター仲間たちの間にはそういうお互いをリスペクトしながら楽しむ空気が当然のようにある。彼らと一緒に滑ったこの一年間のおかげで、改めて自分が大切にしたいスタイルについて見つめ直すことができました」

その技が自分のものになっているかが1番大事

スケボーを始めたのは5歳。それまでは両親の趣味だったスノーボードを一緒にやっていたが、夏季でも楽しめるスポーツとして父からデッキを渡され、のめり込んでいった。

みるみるうちに日本を代表するスケーターに成長したが、両親や地元の先輩スケーターから学んできたのは勝つことよりも大事なことがあるということ。自身のプレイスタイルを模索するときにも、それが指針になる。

関東に来たときによく足を運ぶという、埼玉県川口市のスケートパーク一体型のハンバーガーショップ「BASHI BURGER CHANCE」川口店。左は手塚さんの母

「例えば練習で滑る順番は守るとか、技をきめた人には拍手するとか。スケボーが競技になっていくと、そういう相手のへのリスペクトが忘れられがちだと思う。父がよく教えてくれていたのは、ほかの人の滑りをよく見ることや、他人の気持ちをよく考えてみんなで楽しむこと。

あと、他人の技を安易に盗まないこと。その人がそのパークでやっていた技は、少なくとも同じパークではやらないです。それがその人へのリスペクトだと思うので。その技が自分のものになっているかどうか、っていうのは自分が1番大事にしていることのひとつですね。スケボーは決まり事がなくて自由なもの。そのなかで自分の個性だとか、似合っている技を見つけ出していく。大会で得点を取るためにむしろ積極的に他の選手がやっている技をルーティーンに入れることも当たり前にありますが、個人的にはタブーだと思っています」

手塚さんの愛用シューズは、もちろんVANS。滑っているときに履くのは「OLD SKOOL」か「ROWAN」。写真のOLD SKOOLは新品をおろして一週間でこの状態。「コンクリートのパークで滑るとすぐに履き潰してしまうんです」とのこと

普段履きにしているのは「AUTHENTIC」と「SLIP ON」。AUTHENTICは古くなってきたものは滑るときにも履くのだとか。その日履くシューズの色は「迷うとキリがないので星占いのラッキーカラーで決める」のだそう

スケーターはアスリートじゃない

彦根の実家を拠点にした現在の生活では、スケボーの練習以外にも大切にしている習慣があるという。話を聞けば聞くほど、19歳とは思えない肩の力が抜けたセルフマネジメントぶりに驚かされる。そのブレないマインドは、SNSとの付き合い方にまで貫かれている。

「朝は8時に起きて朝食を食べたらヨガをして、そのあとはスポーツ栄養マネジメントの勉強をして、午後はパークに行って練習、というのが大体の1日の流れです。ヨガは呼吸法とか正しい姿勢を学ぶのにすごく良くて。栄養の勉強は、自分の栄養管理は自分でやっちゃったほうが早いかなと思って、とりあえず認定書をもらえるところまで進めるつもりです。

練習をしたくない日は当然あって、そういうときはお笑いの動画を見たりしてます。好きな芸人は天竺鼠さんとか野生爆弾さん、最近はマヂカルラブリーさんとか。とはいえYouTubeは見始めると歯止めがきかないので、30分経ったら通知がくる設定にしてます」

「SNSはすごく元気をもらえるコメントもあるし、批判的なコメントを見かけたときはその人を見返してやるぞ、と思ってエネルギーに変えるようにしています。

あと、Instagramに新しい技をバンバンあげるようなことはしないようにしていて。自分のものになっていない技をアップするのはダサいと思ってる。面白いコケが撮れたら上げたり、なるべく日常とかけ離れたものにならないようにしています。スケーターはアスリートじゃないと思っているので、そういう印象を持たれるようなポストはしたくないんです」

最近はコーヒーにもハマっていて、スマホのカメラロールはコーヒーの写真だらけなのだとか。遠征先の楽しみも現地のコーヒーショップ巡りとのこと

ドビュッシーとスケボー?

休みの日は家族で散歩をしたり、友だちと遊んだり。家でのんびりするときは、最近はジャズピアノの曲を聴くことが多いという。彼女のなかでピアノとスケボーは、通じるものがあるとのだとか。

「音楽は地元のスケボーイベントに出てたスカパンクのバンドとかも好きだったし、父の影響で好きなブルーハーツは大会前に聴いたり、練習中はEVISBEATSを聴いたり。スケボー中はそういうロックとかヒップホップを聴くことが多いんですが、元々クラシックピアノを習っていたので、ピアノの曲も大好きで。最近はジャズにハマっていて、ビル・エヴァンスとかオスカー・ピーターソンを聴いてます。

クラシック音楽はドビュッシーが1番好きなんです。ドビュッシーの曲って不規則で自由で、難しいんですけど弾いていて楽しいんです。ピアノを習っていたときはバッハとかシューベルトを練習させられるんですけど、ドビュッシーの曲は初めて自分で弾いてみたいと思えたんです。あの自由さはもしかしたらスケボーと通じものがあるのかもしれません。ピアノとスケボーって遠いもののようですが、自分のなかでは結構近い存在です。どちらも無理に辛い練習を課す必要はないと思うし、自由に楽しむことができたら一生飽きることはないんじゃないかな」

ヒロトの言葉と続けることの難しさ

楽しいから続けられる、と思う一方で、その楽しさを維持することは簡単ではないという実感もある。これからのスケボー人生を思うときに気持ちを支えてくれるのは、あの伝説的ロックシンガーの言葉だという。

「甲本ヒロトさんの言葉はすごいなって思います。ヒロトさんのように固定観念を持たずに自分の個性を確立している人ってかっこいいし、憧れます。ヒロトさんがインタビューでおっしゃていて印象的だったのが『なにかを始めた瞬間がピークで、それを維持することが難しい』という言葉。スケボーもやっぱり始めたときが楽しさのピークで、そこから何度も壁にぶち当たって、辞める人は辞めてしまう。

自分はこれまでいろいろなことをやってきたなかで、スケボーだけは飽きずに続けてこれたので、スケボーを辞めることは想像できないです。だけど、自分より上手かった子が簡単にスケボーを辞めちゃうのも見てきているので、続けるのって難しいことだなと思います。

オリンピックによってスケボーがもっと広く興味をもってもらえて、実際に始める人が増えることは楽しみですが、一方で、スケボーは競技としてだけじゃない楽しさもたくさんあるものなので、そういう側面を私はもっと伝えていきたいですね」

アスリートとしてではなくあくまでスケーターとして、大舞台に挑む。創造性を重視するスケーターの美学を持ちながら、さらに広く新しい地平を切り開く手塚さんのチャレンジは、まだ始まったばかりだ。

Profile

手塚 まみ(てづか・まみ))

2002年生まれ、彦根市在住。2019年に行われたパークスタイルの世界最高峰のツアー戦であるVans Park Series Franceにて見事表彰台に上り詰める。その後、同年に行われたツアー世界選手権にて見事3位に輝く。また、スポンサーであるVANSのグローバルキャンペーンに起用され、ボードメーカーのBlood Wizardからビデオパートがリリースされるなど様々なスケートシーンで活躍している。

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