擦り減って穴が空いたVANSから、カラフルな陶器が生き物のように飛び出すーー。スケートボードと陶芸をこよなく愛するアーティスト、横山玄太郎の作品は“意外性のかたまり”だ。エクストリームスポーツとクラフトの異色コラボはなぜ、いかにして生まれたのか!? シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」第10弾。

ストリートカルチャーの代名詞のひとつ、スケートボード。かたや「伝統」や「職人芸」というイメージが強い陶芸。なかなか結びつかない2つの“交点”になっているのがアーティスト、横山玄太郎その人だ。彼はこの2つと、いつ、どのように出会ったのだろうか?

「スケボーに出会ったのは高校生のときですね。15歳でアメリカに行くんですが、半年間だけ日本の高校に通ってたんですよ。そこでシローくんっていう友だちができて、彼から教わりました」。短い日本の高校生活を終えた横山は、9月から始まるアメリカの新学期に合わせて渡米。編入した先はバーモント州パットニーの高校だった。バーモント州は東海岸にあるウィンタースポーツのメッカ。スノーボードの有力メーカー、BURTON創業の地でもある。「スケボーといえば西海岸」かと思いきや、横山がスケボーとともに渡ったのは意外にも東海岸だった。「あんま関係ないですよ。カルチャーがある場所に行かなくても、スケボーはできるからね」。

“自分しかしていないこと”がいずれ個性になっていく

スケボー漬けの高校生活を送るなか、何気なく選択した課外授業で陶芸と出会う。その後、横山はハートフォード大学芸術学科に進学するが、そこでも陶芸を学ぶことを選択した。なぜ陶芸だったのか。「人が褒めてくれたからじゃないかな。たまたま人よりも上手にできたのが陶芸だったんですよ」。誰かから褒められた、認められた、求められた――それはあらゆる表現者の才能を開花させる、はじまりの「1」だ。

大学では「個性を表現することの重要性」を知ったという。それは横山が陶芸を続けていく原動力になった。「ありきたりのことをやっていても、人を魅了することはできないですからね。大事なのは、どれだけ試行錯誤をして、誰も見たことのないものを生み出せるか。陶芸って微妙なジャンルなんですよ。コップや壺をつくればそれはクラフトと呼ばれるし、実用性のないオブジェをつくればそれはアートとみなされる。でも、自分の場合はあまり気にしてないかな。クラフトかアートかは見る人が判断するところだから。つくり手が考えても答えは出ない。クラフトらしいもの、アートらしいものをつくることより、自分にしかつくれないものを生み出す方がはるかに重要です」。

数々の作品が並ぶアトリエ。窯も備えている

大学を出てから、横山は職人として製陶所に勤めはじめる。仕事として陶器をつくり、そして週末には、山に行ってスノーボードを教える仕事もしていた。もちろん、その間スケボーが肌身から離れることはない。「『おまえどこ行くにもスケボー持ってるよな。ウゼえんだよ、それ』って言われても『うるせえ!』って返してました(笑)。それくらいスケボーと一緒でしたね。いいスポットがいつ見つかるかわかんないですからね。『あ、ここで滑ってみたい!』って思ったときにスケボー持ってないときの悔しさったらないからね。最近はどこでもスケボーできるご時世じゃなくなっちゃったけど、それでも街中を『いいスポットか、そうじゃないか』っていうスケーターの眼でみる癖は治らないですよ」。

スケシューに穴を空ける過程でのセルフ撮影。アトリエの近所にもお気に入りスポットを複数見つけている

授業の合間、仕事のあと、隙あらばスケボーをしたという横山。とくに新しいパーツが手に入ったとき、新しいシューズを買ったときは、すぐにでもスケボーをしたくてウズウズしたという。横山が今回選んだVANS「HALF CAB」は、そんなアメリカ時代の思い出の一足だ。

「HALF CABを買ったのは、たしか渡米して2年目の夏だったと思います。せっかくアメリカに来たし、西海岸もやっぱり見たいなと思ってカリフォルニアのバークレーに行ったんですよ。そこで新しいスケシューとしてHALF CABを買いました。当時は『AIRWALK』がまだまだ全盛だったんだけど、VANSから新しく出たHALF CABも試してみたくて。本当に衝撃的でしたよ。ソールが他のより厚いしハイグリップで、ボードのフィーリングがすごく新鮮だった。『なんじゃこりゃ!』って驚きを今でも覚えてます」

VANS HALF CAB/¥9,900

これまで履きつぶしたスケシューは100足以上。だが、16歳までは2足ほどしか履いていなかった横山にとって、HALF CABは画期的なだけでなく、16歳当時の思い出が詰まったメモリアルなシューズだ。今回のコミッションワークにあたり、彼は陶芸とHALF CABをコラボさせることにした。陶芸家でありスケーターでもある彼にしかできないチョイスだ。“履きつぶしたHALF CABに穴が空いていて、そこから陶のオブジェが漏れ出す”。オファーを受けてすぐに、そんなイメージが頭に浮かんだという。しかし、実際の制作は一筋縄ではいかなかった。

「加工して穴を空けるんじゃ意味がなくて、スケボーで履きつぶして穴を開けたかったんですよ。『時間の蓄積』として穴をつくりたかった。だから2ヶ月間、とにかくスケボーしまくりましたよ。こんなに頻繁に滑ったのはいつぶりかなってくらい。経験上、1ヶ月くらい滑ってればスケシューなんてすぐ穴が空くはずなんだけど、この靴は全然空かなくて……。頑丈なのはいいことなんだけど、今回ばかりはつらかった(笑)」

トリックを決める際ボードに擦れやすい部分に2カ所穴が空き、手前の大きく空いた方から“魂”が溢れ出す作品になった

「穴から漏れ出してるのは陶器、つまり僕自身ですよ。だから作品タイトルは『自画像2021』。今の自分の大部分は、陶芸とスケボーでできてますからね。自分の身体が入ってた靴、そこに穴が空いたら『自分』が漏れ出す。自然な発想でしょ? 好きで続けてきたものが自分自身を形成するなら、汗が出るように陶器が出てきても不思議じゃない」。陶芸とスケボー。およそ30年にわたる「時間の蓄積」が、HALF CABの側面に空いた穴を介してつながる。「好きなものって自然とかたちに現れてくると思う」と横山はいう。彼にとって今回の作品は、期せずして2つの「好き」が同時にかたちになった結果だ。

自分だけの時間の蓄積や変遷こそ“オリジナリティ”

自分の陶器も、スケーティングも、両方とも自分の個性がかたちになった『表現』だから。そこに区別はないですよ。経験してきたことはすべて、自分のなかに蓄積されているんだと思っています。見聞きしてきたこと一つひとつが、自分の思考やつくりたいものに影響してくる」

陶芸とスケボーから得た経験全部を「自分」としてさらけ出した彼の表現は、他にはない個性を放っている。そんな彼に今後やりたいことについて聞いてみた。「茶会をやりたいですね。スケボーにまつわる諸々からサンプリングした素材で茶道具を作って、新感覚の茶会を開きたい。それと“デコろくろ”! ろくろの回転スピードってペダルで調整するんだけど、それを踏み込んだときに「ブォーン!」って音がしたらおもしろくない(笑)? 車のアクセルみたいにさ」。

「今回の制作でスケシュー履き潰すまでスケボーやって、自分の身体が若いときとは別物になってることに気づいたんですよ。『あれ、こんなに動けなかったっけ?』って。でも、それはそれでいいんだよね。それも大事なことだし、古くなった自分に対する『新しい発見』ができたってことなんだから悲観する必要はない」。なるほど、トリック「ハーフキャブ」のように軽やかな発想の“反転”。自分の経験を全肯定して、変化に対していつも前向きでいること。アーティストが見せてくれるのは作品であり、生き方そのものなのかもしれない。

Profile

横山 玄太郎(よこやま・げんたろう)

1978年生まれ。15歳で単身渡米。留学先の高校で陶芸と出会い、ハートフォード美術大学に進学。卒業後、現地の陶器製作所に勤務ののち、2002年に帰国。以降、門前仲町にアトリエを構え、カラフルな液体ねんどを使った世界一簡単な新感覚陶芸ワークショップ「門仲焼」を展開。銀座三越をはじめ国内外のギャラリーで作品を発表。森英恵や漫画『へうげもの』の企画展などに参加する。作品は森ミュージアムショップにて取り扱い中。NHK教育テレビで長らく放送されていた工作番組『つくってあそぼ』でお馴染み“ワクワクさん”の従兄弟にあたる。

http://gentceramics.com/

Instagram @gentceramics


門仲焼HP https://www.monnakayaki.com/

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