Story

Shoes × Culture

アート・オブ・シューズグラフィティのように自由に ー New Balanceの名作スニーカーから生まれた新しいアートワーク

Artwork Colliu
Photography Ryosuke Misawa
Text Sosuke Misumi
Edit Keisuke Tajiri
Cooperation Haruka Ito(island JAPAN)

いま話題のアーティストが、シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」。記念すべき第1弾はアーティストであり、モデルとしても活躍するColliu(コリュ)。不動の人気ブランド、New Balanceとのコラボレーションで、一体どんな作品が生まれるのか!?

シンプル&スマートの定番モデル「996」の魅力

Colliuが今回モチーフにしたのは、New Balance「996」。1988年にリリースされて以来、不動の人気を誇るニューバランスの大定番だ。すっきりとしたシルエットとニュートラルなグレーは、カジュアルからキレイめまで、どんなスタイルにも馴染んでくれる。

ミッドソールには衝撃吸収に優れた「ENCAP(エンキャップ)」構造を採用。さらにNew Balance独自の技術「C-CAP(シーキャップ)」によって、クッション性と耐久性をそのままに軽量化を実現している。クラシックな見た目に最高の履き心地。シンプル&スマートこそ、このモデルがいまも愛され続ける理由だ。

そんな996の「ベーシックな形」に惹かれたというColliu。自分の作品世界に登場させるにあたって、アレンジを加えやすいところがチョイスの決め手になったという。

実はNew Balanceを手にするのは今回が初めてだというColliu。新しい出会いに新しい挑戦を試みた

「作品を作るときは、最初に浮かんだアイデアがそのまま形になることが多いです。素材の制約をクリアしながら、ふわっとしたイメージにディティールを与えていく。今回、シューズを作品のモチーフにするにあたって、自分だったらNew Balanceにどうやってアプローチできるかなって考えました。でもあまり引っ張られすぎず、自分が今やりたいことと掛け合わせて行ったのが今回の作品。ここ最近ずっとやってみたかったのは、ベースになる板の上に、別の板から切り出したモチーフを重ねるという手法でした。私はペインティングと立体のあいだを行き来しながら制作をしていて、今回の作品もそんな関心から出発した、“平面に近い立体、でも立体とは言えない”っていうマージナルなものになっています」。

シューズに大きく刻まれているのは、シンボリックなNew Balanceの“Nロゴ”

完成した作品はどことなくNew Balanceを彷彿とさせ、ブルーとグレーが印象的にうつる。Colliuらしいビビットでポップな色調とは少し違った、落ち着いた仕上がりになっている。「板を重ねるアイデアが浮かんだとき、996は、次に挑戦したかった作品のイメージと近かったんです」と話すColliu。996とのコラボレーションは、アイデアを形にする良いきっかけになったようだ。

誰でもわかる、愛されるアイコンを

「990」シリーズと言えば、New Balanceのラインナップの中で最も歴史あるシリーズの一つだ。シリーズのオリジン「990」がリリースされたのは1982年。特許技術「ENCAP」を採用した高機能ロードランニングシューズとして一躍その名を轟かせた。その後、「995」を経て登場したのが「996」。ストリートだけでなく、ハイエンドユーザーまで幅広く支持される996は、まさに990シリーズの決定版といっていい。

よく見るとソール部分だけが斜めにカットされ、作品が立体であることを際立たせている

優れたプロダクトに歴史があるように、気鋭のアーティストにもまた豊かなバックボーンがある。「私が最初にアートと出会ったのは高校生のときでした。桜木町の高架下にたくさんグラフィティが描いてありますよね。あれがすごく魅力的で。それまでは美術館にも行ったことがなく、そもそもアートワークを観るっていう体験をしたことがありませんでした。だから自分が初めて生で観たアートはグラフィティだったんです。そのインパクトから出発して、ハイアートの絵画に影響を受けながら今のスタイルに至っています」。

作品の“図面”はiPadで制作し、カッティングもレーザーカッターを使って手書きによる線のゆらぎを忠実に再現している

「グラフィティの重要な要素の一つに『タギング』というのがあります。主に文字を使った一種のマーキングなんですけど、なかにはイラストを使ったタギングもあるんです。文字よりもユニバーサルで、自分みたいなグラフィティカルチャーの外側にいる人間にも届くところに惹かれました。

美大に入ってからは『自分のスタイルをつくりたい』って思っていたんですが、そんな折もグラフィティの、特にイラストを使ったタギングのことがずっと頭にありました。タグとしての『顔』っていうのはすごく強いアイコンだと思っていて。それを他のタグに上書きするだけで、完全にその場を乗っ取れる感じが。それって裏を返せば、それだけオリジナリティを主張できるってことだと思うんですよね。

ゼロから自分のスタイルを作り出すのってすごく難しい。でも、すでに出来上がったピースに『顔』のようなアイコンを一つ上書きすれば、それだけで唯一無二のものができる。たった一つオリジナルな記号さえあれば『自分のスタイル』は表現できるなって気づいたんです」。

アイコンとなる「顔」は、既存のコンテクストを自分の表現の場として“ハッキング”する記号としても機能している

世界にはオリジナルな「顔」で有名になったグラフィックアーティストが何人もいる。目が「×」になったキャラクターで世界的に知られるKAWS(カウズ)などは好例だ。Colliu自身はアンリ・マティスやデイビッド・ホックニーのペインティングを敬愛しているが、一方でバリー・マッギーなどのグラフィティライターからも影響を受けたという。少ない要素で構成されていながら、Colliuの作品は一目で彼女のものだとわかる。それは言うまでもなく、この「顔」があるからだろう。「顔」というコアがあるからこそ、さまざまなフィールドで、ブレることなく表現を展開していけるとColliuはいう。ハイアートとストリートのあいだ、そこでの絶妙なスタンスの取り方に彼女の「らしさ」がある。

いつでも、どこでも自由自在に

 「グラフィティは建物の外壁を乗っ取ることで成立しています。既存のものをハッキングしていくようなやり方が、自分には必要でした。美大の油絵科にいたときは、何にも依拠しない『オリジナリティ』をめざす空気がちょっとストレスだったんですよね。そういう息苦しさの中で、グラフィティやイラストレーションの自由さを求めた結果、いまのスタイルに行き着いたんだと思います」。

こうでなければいけない、というプレッシャーを軽やかにかわした先に、自分の生きやすさがあったという。おそらく自由とは、プレッシャーや制約との「付き合い方を変える技術」なのだろう。「ブランドとのコラボレーションは自分の可能性を広げていくこと」だとColliuは話す。いつどんな状況でも、自由に、フレキシブルに振る舞う彼女の作品には、抑圧をモノともしないグラフィティのマインドが宿っているようだ。

Profile

Colliu(コリュ)

アーティスト兼モデル。武蔵野美術大学油絵学科卒業。目が特徴的な人型のモチーフを中心にドローイング、絵画、立体作品など、様々な手法で独自の世界を発表している。新宿ニュウマンのウィンドウディスプレイや、RADWIMPS「棒人間」の絵本作成、COACHとのアートコラボレーションなど活動は多岐にわたる。

Related Story 関連記事