



Shoes × Culture
アート・オブ・シューズ
ひとりでにモノが動く衝撃! いったい何のために? キーワードは「時間」。シューズをテーマにオリジナル・アートワークを創作する企画「アート・オブ・シューズ」、気鋭のインスタレーション作家・横手太紀が登場する第20弾は、エイジングとモノの価値、消費社会時代の審美眼をめぐる一大タイム・トラベル奇譚。靴箱に仕舞い込まれし、いにしえのシューズたちがいま動き出す?!

今回制作された複合作品、一見するとシューズをモチーフにしたとは思えない、意外なビジュアルをしている。中心に鎮座するのは、光沢のあるカーキ色の四角いオブジェ。実は陶、つまり土でできている。壁のようにそり立った陶板の表面に刻まれているのは、ひとりでにカタカタと動くスニーカーが這い回った足跡だ。
見る者に不思議な心地よさと違和感をもたらすその機械的な動きに比べて、陶板の凹凸は妙に生々しくギラついている。なんとも不思議なコントラスト。「モノと人のあいだには同じ時間が流れているということを見せたい」。アーティスト・横手太紀は、今回の制作の動機をそのように表現する。
「すぐに消えて忘れ去られてしまう足跡のようなものを、陶器にしてずっと保存できないかなと考えていました。例えば、動物の痕跡が化石として残るような感じで。今回の作品は、いわばモノの痕跡です。靴が自律して動いた痕跡、あるいは靴の中にある電動マッサージ器や筋トレ器具の動いた痕跡が形として残ったものだといえます」
芸大修士課程に在学中の若手作家である横手は、日用品や廃材、何気ない自然物などの“取り立てて目を引かないモノ”たちが、うにうに、わさわさ、くるくるとまるで生命を宿したように動き続ける、シュールかつユーモラスなインスタレーションで注目を集めている。今作にも通ずるのは、“与えられた役割”を終えて打ち捨てられゆくモノたちへのまなざしだ。
2021年11月から12月にかけて六本木ANB Tokyoで開催された企画展『Encounters in Parallel』出展作品
「“一個一個が大事にされていないもの”が僕の作品のモチーフです。別に消費社会を非難したいわけではないんですが、捨て置かれるモノや、大量生産されている一見同じに見えるモノにも固有の価値が宿ることはあると思うんですよね。遺跡とか出土品とか、そういうものって昔は別の用途や価値を持っていたわけですよね。それらが時間の経過によって次第に失われていき、やがて別の価値を帯びるようになった。時間の経過がモノの新しい側面を見せてくれるのならば、自分の身の回りのものも同じように残したいなって」。すぐに消えてしまうはずの足跡が陶板として“遺跡”になるとき、そこにはたしかに別種の存在感が宿っている。
アート・オブ・シューズの制作依頼がくる前から、シューズを使った作品の構想はあったという。「靴も中学時代に履いていたものから最近のものまで全部残っています。彫刻をやっていると靴が消耗するスピードも早いので、溜まっていく一方で。そんなどうしようもない靴たちをいつか作品として昇華してあげたいなという思いはありました」。

施されたテーピングも「自分の色」。アッパーとソールが外れパカパカしてしまっても、補修して履き続けている
今回の制作にあたって、横手はadidas Originals「SUPERSTAR」のオールホワイトモデルをチョイスした。トレードマークのスリーストライプスも白、シュータンのトレフォイルもエンボスという徹底ぶり。不朽の名作としてのヘリテージ以外、すべて漂白したシンプルな一足だ。
「装飾がオリジナルの靴というよりは、普通の靴が履くにつれてオリジナルになっていく感じが好きで。シンプルで違和感のないこの靴を選びました。白い靴って履き込んでいくと、白なんだけど白とは言い難い、何ともいえない色に変わっていくのが良いですよね。汚れていくのがかっこいいというか、愛着が湧きます」。シンプルなものに「自分の色」をつけていく。なるほど、白いシューズにはそういう楽しみ方がある。

adidas Originals SUPERSTAR/¥14,300
「小さいころからモノに対する愛着が強いほうで、今でもなかなか物が捨てられないんですよね」。海の近くで育った横手は、物心ついたときから石や流木をコレクションしていたという。そこに彼の創作の原点がある。「海辺っていろんな時間が流れているんですよ。日が昇って落ちるまでの時間、打ち上げられた流木が経てきた時間、砂浜の足跡が波に消されるまでの時間、長短さまざまな時間が感じられます」。
モノの内に流れる時間を鋭敏に感じ取ってきたからこそ、横手のモノに対する洞察と愛着は人一倍深い。「自分の身近にあるものとか、思い入れのあるものを作品に使うことが多いですね。集めていた流木とか、取り壊された自分の元アトリエの床を使ったこともあります。役割を終えてみえるようなものに対する感覚を、見てる人にも味わってほしいのかもしれません」。

時間を経たモノには独特な味わいが宿る。ヤレたりくたびれたりした物の“表情”は、時間がつくり出した確かな個性だ。あるいは“ヴィンテージ”や“エイジング”という言葉があるように、時の試練に耐えた物だけに宿る固有の価値がある。
卑近なものを大切に保管してきた横手は、時間が物をかけがえのない存在へと変えていくことを知っているのかもしれない。ともに過ごした時間は愛着を生み、愛着は物に固有の価値を与える。時間とともに変化していく物は、人の認識や感情もまた変えていく。横手の作品がユーモラスに動き、時間の経過を知らせることで促すのは、見る者の変化なのだ。



ギラギラと輝きを放つリッチな質感。粘土からつくられる陶板は、自動シューズによる刻印後に800℃に焼き上げられ、薬を塗り、もう一度1200℃ほどのさらなる高音で焼き上げる。制作期間は2週間ほど
「人工物も、自然物も、無機物も、モノは人と同じように時間を経験しています。僕が彫刻を動きとともに提示するのは、物にもまた時間が流れていて、それゆえオリジナルな“野生的存在”にもなりうるということを感じてほしいからです。作品に使用する動きは基本的に、マッサージ器やおもちゃなどの既製品の動きを使います。普段は自律的に運動しないモノが不規則に動いたり、運動の継続によって自壊していったりする様子からは、何かしら時間の経過を感じることができるんじゃないでしょうか」
消費されゆく“不憫”な運命を呪うでもなく、モノたちは飄々と動き続ける。作品化され、心なしか楽しそうなモノたちのように、横手の展望も軽やかだ。「次は映像作品をつくろうと思っています。動く彫刻に限らず、作品の内容によって今後はもっといろいろな見せ方をしていきます。そんななかで、別のカルチャーとも関わっていきながら、より多くの人が身近にアートを感じられるきっかけになればと思います。これまでの展示形態や見せ方に限定されないアートの可能性を探していけたらいいですね」。
思えば、バスケットシューズとして生まれたSUPERSTARがHIPHOPアイコンとして爆発的にリバイバルされるまでにも、約20年もの月日を経ている。枠組みを飛び超えることは容易ではない。だが、新しい価値が新しいモノだけから生まれてくるとは限らないのもまた真実。それをよく知る横手にとって、ニュー・パースペクティブへの道行きは決して暗くないだろう。

1998年神奈川県逗子市出身。東京藝術大学彫刻科在籍。日用品や陶器、家電の動きなどを使った彫刻、インスタレーションを制作。近年は、自身の身近にある景色やそこにある物質に、既製品の動きを利用したギミックや彫刻的なアプローチを行うことによってそれらの「野生的な側面」との出会いのきっかけを探究する。主な展示に「タウンワークス」渋谷パルコGALLERYX(東京、2020)、「Rabbit hole peeps」ANAGRA (東京、2021)、 「獸 (第 0 章 / 交叉時点)」北千住BUoY(東京、2021)、「squattin’」北千住空き家 (東京、2021)、「P.O.N.D.」渋谷パルコPARCO MUSEUM TOKYO(東京、2021)、「DELTA2021」シーサイドスタジオCASO(大阪、2021)、「Encounters in Parallel」ANB Tokyo(東京、2021)など。
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