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アイコニックアイテム復刻モデルでブレイクしたハイテクスニーカー ―Saucony GRID WEB

Text Hiroshi Sato
Illustration Atsushi Ave
Edit Momoko Naito

ブランドを代表するアイテムのルーツを紐解き、その魅力の本質に迫る連載企画。シューズ史の1ページを担ってきた数々の名プロダクトを振り返りながら、シューズの大辞典「アイコニックアイテム」を構築していこう。
今回のアイテムはオリジナルが2000年に発売され、2019年に初復刻を果たしたSaucony「GRID WEB」。セレクトショップ「KITH」とのコラボレーションモデルやシカゴで開催されたイベント、ComplexConでのお披露目がInstagramでも話題を集めたハイテクモデルを紹介する。

テニスラケットを連想させる、クッショニングテクノロジー

1991年にデビューしたSaucony「GRID」

現存する世界最古のアスレチックブランドであり、日本人にも身近なSauconyは1898年に北米のペンシルバニア州で創業したスポーツブランドだ。Sauconyが生産するランニングシューズはスポーツ専門誌から高い評価を獲得しており、1980年に登場した「TRAINER 80」は、ランニングシューズの完成形のひとつと讃えられた程だ。そのSauconyが1991年に実装したクッショニングテクノロジーがG.R.I.Dである。

そのG.R.I.D はGROUND REACTION INERTIA DEVISEの頭文字が由来で、“接地時の反応と慣性への考案”と意訳できるものだ。テクノロジーのコアとなる“グリッドカセット”と呼ばれる格子状の構造体は、ガットを張ったテニスラケットのような見た目を持っている。

グリッドカセットでスニーカーのソールにスイートスポットを作り出し、クッション性をアップさせている

そしてG.R.I.Dが快適なクッショニングを生み出す理由も、テニスラケットをイメージすると分かりやすい。テニスラケットはスイートスポットと呼ばれるポイントでボールを打ち返すのが基本。その理由はスイートスポット以外のガット面は硬く、充分な反発力を得るのは難しい構造になっているからだ。そしてグリッドカセットもランニング時に衝撃がかかる部分は柔軟性が与えられ、それ以外の部分は硬く、安定性を発揮するチューニングが施されている。G.R.I.Dはランニング時の衝撃を受け止めるスイートスポットを持つクッショニングテクノロジーなのだ。

スニーカートレンドの急激な変化に翻弄された隠れた名作

くもの巣(WEB)のようなメッシュがデザインされたGRID WEBポスター

このG.R.I.Dを搭載して2000年に発売されたGRID WEBは、かつてストリートを席巻したハイテクスニーカーのトレンドを反映したプロダクトだ。社会現象とまで評された1990年代のハイテクスニーカーブーム時には、斬新なデザインのアッパーに独自のクッショニングテクノロジーを搭載する厚底ソールを組み合わせたスニーカーが人気を集めていた。Sauconyが提案するGRID WEBも通気性を確保するメッシュアッパーに蜘蛛の巣(WEB)のように補強パーツを張り巡らせ、シューズの前後端にスピード感を演出するラインをインプットして個性を際立たせている。G.R.I.Dを内蔵する厚底ソールの土踏まず部分がえぐられたようにデザインされているのも、当時のハイテクスニーカーらしさを醸し出すディテールだ。

だが、オリジナルのGRID WEBはストリートの主役にはならなかった。盛り上がり過ぎたハイテクスニーカーブームの反動は大きく、ストリートファッションのトレンドは、1998年を境にオーバーサイズのウェアを取り入れたギャングスタイルから、自然な着こなしを楽しむ“裏原系”へ急速に変化していく。それと連動するようにスニーカーのトレンドもボリュームを強調したハイテク系から、シンプルなシルエットを描くモデルに移っていった。2000年にはハイテク系デザインというだけでスニーカーファンの選択肢から外されてしまう空気感があり、個性的なデザインに仕立てられたGRID WEBも特に注目を集めることは無かったのだ。Sauconyの先進的なデザイン性を感じさせつつも時代の流れに翻弄された感のあるGRID WEB。2019年になると、世界中のスニーカーヘッズから注目を集めるアイコニックアイテムへと昇華したのだ。

世界的なスニーカーイベントで注目を集めた復刻モデル

2019年に発売されたKITHコラボモデル

2018年にブランド誕生120周年を迎えたSauconyは、1980年代と1990年代、そして2000年代を振り返り、当時のプロダクトに敬意を表した復刻モデルを提案する“DECADES PROGRAM”をスタートした。このプログラムでは2018年12月に「AZURA」を初復刻したのを皮切りに、2019年6月には「AYA」をラインナップ。続く第3弾にGRID WEBが選ばれているが、そのローンチまでの展開が衝撃的だった。2019年6月にスニーカー界のカリスマであるロニー・ファイグのセレクトショップ「KITH」とのコラボレーションモデルが発売され、瞬く間に完売。その熱気も冷めやらぬ2019年7月、シカゴで開催された“ComplexCon(コンプレックス・コン)”にてGRID WEBの展示・即売がアナウンスされたのだ。ComplexConは目の肥えたスニーカーヘッズが全米から集まるスニーカーとストリートカルチャーの祭典である。その会場でお披露目されたオリジナルカラーのGRID WEBはKITHコラボのベースモデルという話題性も追い風となり、来場者から高い評価を獲得したと伝えられている。

GRID WEBのオリジナルカラーがお披露目された、2019年コンプレックスコンの様子

世界中のスニーカーヘッズに衝撃を与えたGRID WEBは、2019年7月26日にオリジナルカラーを再現した「OG」が140足の数量限定で発売。その後は現代のスニーカーシーンを意識したバリエーションを展開し、2020年5月にも2色が追加されている。2000年当時を知る世代のファンの目には懐かしさを覚える復刻モデルとして映るのだろうが、若い世代のスニーカーヘッズは、いつものSauconyとは異なる雰囲気を持つ新しいプロダクトと感じているに違いない。折しも現代のスニーカーシーンではボリュームあるデザインのハイテクスニーカー人気がリバイバルしている。懐かしさとフレッシュな魅力を兼ね備えるGRID WEBは、足元のコーディネートを彩るアイコニックアイテムとして活躍してくれるハズだ。

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