Story

Shoes × Detail

アイコニックアイテムスケートボードカルチャーと共に進化し愛された定番シューズ ―VANS ERA

Text Hiroshi Sato
Illustration Atsushi Ave
Edit Momoko Naito

ブランドを代表するアイテムのルーツを紐解き、その魅力の本質に迫る連載企画。シューズ史の1ページを担ってきた数々の名プロダクトを振り返りながら、シューズの大辞典「アイコニックアイテム」を構築していこう。今回のアイテムは、スケートボード用のシューズとして誕生し、今や世界的な定番スニーカーへと成長を遂げたVANSの「ERA」。多くのスニーカーファンにとって身近なプロダクトのひとつであり、シンプルなデザインはコーディネートを選ばず“いつものスニーカー”に相応しい一足だ。今回は身近な定番スニーカーの歴史をあらためて振り返り、VANSを象徴するアイコニックアイテムと最新のバリエーションモデルへの理解を深めよう。

伝説のスケートボーダーの協力を得て誕生した世界初のスケートボードシューズ

豊富なカラーバリエーションとコストパフォーマンスの高さが評価され、スニーカー界の定番であり続けるVANSの「ERA」。1976年当時の空気を受け継ぐスタイルはオールドスクール感を好む大人に愛される一方、幅広いコーディネートとの相性の良さや耐久性の高さが若者からの支持を集めている。このシンプルなスニーカーが世界的なアイコニックアイテムと認知されている背景には、世界初のスケートボードシューズというストーリーが欠かせない。

1966年に北米のカリフォルニア州アナハイムでポール・ヴァン・ドーレンがパートナーと共に創業したVANS。そのブランド名は“VANと仲間たち”が由来と伝えられている。VANSはシンプルなデッキシューズをカスタマイズオーダーするショップとして創業。開店した初日に12足のデッキシューズを受注した。当時は「STYLE 44」と呼ばれていたデッキシューズは、現在も「AUTHENTIC」と名前を変えて生産されているのも有名なエピソードだろう。STYLE 44はリーズナブルでありながら、バルカナイズ製法による優れた耐久性とガムソールが生み出すグリップが評判を集め、カリフォルニアのスケートボーダーが愛用するようになっていく。そうしたニーズを背景に、トニー・アルバやステイシー・ペラルタなど今ではレジェンドとして讃えられるスケートボーダーの意見を取り入れ、STYLE 44にアップデートを施して1976年にラインアップしたのが、世界初のスケートボードシューズ「STYLE 95」ことERAだ。

Z-BOYSと共に進化したカリフォルニアのスケートボードシーン

1960年代に誕生したスケートボードは、元々サーフィンの練習用に使われていた。当時は水平方向の移動だけだったスケートボードに、縦の動きを取り入れたのがトニー・アルバやステイシー・ペラルタに代表される伝説のスケートボードチーム“Z-BOYS”だった。水不足に悩む1970年代のカリフォルニアでは、庭のプールを空にしている家が少なくなかったと伝えられている。そのプールに目を付けたZ-BOYSは住人が留守の隙にプールに忍び込み、滑らかで角度のある壁面を使ってさまざまなスキルを生み出していく。スケートボードがエクストリームスポーツへと進化すると、足元を支えるシューズにも激しいボーディングに耐えるホールド性や耐久性といった新たな要素が求められるようになる。トニー・アルバやステイシー・ペラルタはSTYLE 44のバルカナイズソールやガムソールのグリップを継承し、履き口にパッドを詰め、強化型のヒールパーツを装着してホールド性を向上させるアイデアをVANSに提案する。そうして誕生したのがERAであり、1976年当時のポスターにも“SKATEBOARD SHOE”の文字と共に、プールでボーディングを楽しむステイシー・ペラルタの写真が使われていた。スケートボーディングを想定したタフネスはスニーカーとしてのメリットとなり、スケートパーク以外でERAを着用するユーザーが増えていくが、ERAを選ぶ少年の根底にZ-BOYSへの憧れがあったことは想像に難く無い。

余談だが当時のウィールにはゴム素材が使われており、Z-BOYSが忍び込んだプールの壁面にはアーチ状のウィール跡が幾重にも残され、それは“BLACK RAINBOWS”と呼ばれていた。そして「ERA STYLE 95 DX “Anaheim Factory”」発売を記念して2019年にベニスビーチで開催されたイベントにも、“BLACK RAINBOWS”のタイトルが掲げられていた。ERAは世界初のスケートボードシューズであると共に、カリフォルニアのスケートボードシーンを象徴するシューズなのだ。

現代的なライフスタイルに合わせて進化した「ComfyCush」

シンプルに仕立てられたERAのルックスは時代のトレンドに左右されず、40年以上も愛され続けている。知名度が高く確かなバックストーリーに支えられるアイコニックアイテムでありながらいつの時代も手に入りやすく、身近な存在であり続けている事実は称賛に値するだろう。スケートボーダーのために誕生したERAは、やがてさまざまなジャンルのアーティストが愛用するようになり、ストリートシーンでも絶対的な定番、すなわちアイコニックアイテムとしての地位を確立するに至る。着用シーンが多様化すると、ライフスタイルにあわせたERAが求められるようになるのも当然のこと。そしてストリートでの履き心地を追求したERAの象徴的な存在と言えるのが、ComfyCush(コンフィクッシュ)と呼ばれるバリエーションだ。

履き心地を追求して登場した、ComfyCush版ERA

ComfyCush版のERAは見た目こそ“いつものERA”だが、ハイテクスニーカーのような履き心地を実現。伝統のバルカナイズソールを軽量でクッショニングに優れたフォームラバーに変更し、さらにアッパーと一体化したシュータンを採用することで、歩行時の靴ズレを防ぐというもの。オリジナルのSTYLE 95がスケートボーディング時に求められるスペックを追求したのと同様に、ComfyCush版のERAではストリートを快適に歩くためのスペックを徹底的につくりあげていったのだ。

もちろんバルカナイズソールならではのレトロ感漂う履き心地は今も魅力的で、オリジナル仕様のERAは今後も高い人気に支えられ続けるだろう。それでも快適な履き心地に特化したERAであれば、元々のコーディネートへの取り入れやすさも手伝って、出かける際に選ぶ機会が増えるのは間違いなさそうだ。ComfyCush版のERAは、1976年から受け継がれるERAの良さを知るファンこそ体感すべき一足なのかもしれない。

Related Story 関連記事