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Shoes × Fashion

ニューウェーブ・ファッション下北沢の“アブない”新店、ADULT VIRUS。若者たちのセーフティスペースとしても機能するカルチャーのるつぼ

Photography Yuki Nakamura
Text Shota Kato(OVER THE MOUNTAIN)
Edit Kunihiro Miki

アシッドパンク、テクノエロティック、スペーススケートをテーマに掲げ、大人げない未来と幼稚な過去のミクスチャースタイルのファッションを提案する「ADULT VIRUS(アダルトウイルス)」。2018年にブランドとして始まり、2019年にはブティック兼アトリエを下北沢の一番街に構えた。オリジナルアイテムと古着に共通しているのは“カルチャー”を感じるということ。漫画、アニメ、音楽、映画、ゲームなどカオティックにカルチャーが混ざり合い、独自のスタイルを貫くADULT VIRUSの世界観を紐解く。

こちらのお店、かなり入りづらいですよね。ショップは雑居ビルの2階にありますが、1階の扉を開けて薄暗い階段を上るのは緊張感がありますし、さらにもうひとつ扉を開けないと店内に入れない動線はなんとも不気味な雰囲気です。

KIYO: 若い子は勇気が要るだろうなと。僕が10代だったら絶対嫌だろうなと思うけど、お客さんが入って来れるかどうかを楽しんでいるんですよ。僕の顔を見て逃げるように階段を下りていった子たちもいました(笑)。速攻で帰るか、長居するかのどちらかだけど、「この店は知っているな」と思ってもらえるとテンションが上がります。客層は、地方から来てくれるファッション好きの若い子がいたり、バンドマン、DJ、あとはホストなんかも来ますね。

KIYOさん

― 「ADULT VIRUS」の構成要素について聞きたいのですが、KIYOさんにとってカルチャーの入口はやはりファッションですか?

KIYO: いや、漫画ですね。僕、漫画家を目指していたんですよ。幼少期は『週刊少年ジャンプ』に載りたかったんです。でも思春期を迎えたら、パタッと描かなくなってしまって。たまに実家に帰って当時描いていた作品を見返してみると、「これ、小学生が描いたの?」と思うくらいにクオリティが高いんですよね。当時、出版社に持ち込んでいたらどうなっていたんだろうって(笑)。荒木飛呂彦先生や冨樫義博先生の絵に影響を受けながら、賞金稼ぎの話を描いていましたね。

― どうして漫画を描くことを諦めたんですか?

KIYO: やっぱり恋愛じゃないですか。モテたいからファッションを意識し始めました。僕にとっては学ランの着崩しがファッションの入口でしたね。通っていた中学校にはめちゃくちゃヤンキーが多くて、みんな学ランで個性を出そうとするんですよ。刺繍を入れたり、ベルトやボタンを変えてみたりして。各々が決められた学ランの中で個性を出すから、「俺も出さなきゃ」みたいな気持ちになりました。その頃から私服はずっと古着なんですよ。

― その後はどう変わっていくんですか?

KIYO: 漫画に関連した仕事をファッションでしたいと思うようになって。上京して最初に入社したのが漫画とコラボしたアパレルをつくる会社だったんです。そこは『ジョジョの奇妙な冒険』とコラボしていたんですよ。

― まさか荒木先生に会えたり?

KIYO: そうなんですよ。『ジョジョの奇妙な冒険』のアニバーサリーパーティーに呼ばれるようになって、自分の目の前に荒木先生がいて、握手できたんですよ。「めちゃくちゃ夢が叶ってるじゃん……」って感動しました。僕はなぜか自信だけはあって、いつかは自分のブランドをやりたいなと思っていたんです。最初の会社でイラストレーターのソフトの使い方をマスターして、そこから3つくらい会社を転々とするんですけど、パタンナー、デザイナー、生産管理を経験するなかで、洋服づくりに必要な技術が集まっていきましたね。

― 洋服づくりのプロセスを学んでいったんですね。

KIYO: 2年前にそろそろ独立できるタイミングなんじゃないかと思って、会社に勤めながらブランドネームを考えて、有給休暇の消化中に下北沢の一番街でポップアップイベントをやっていたんです。それがADULT VIRUSの始まりですね。

― ADULT VIRUSという名前はどうやって決めたんですか?

KIYO: 絶対にAは使いたかったんですよ。僕は音楽のバックボーンがパンクで、その中で語られる言葉に「Anarchy」があるから、そのニュアンスを入れたいなと。もうひとつはSF映画の影響ですね。SF映画ってウイルス系の作品が多いことに気づいて。ADULT VIRUSってめちゃくちゃ響きが良いし、略すとAVにもなるし(笑)、パンクの精神でもある大人に対するアンチテーゼ的な意味もあるし。

― それからポップアップイベントを経て、お店を構えることになったと。古着とあわせてオリジナルのアイテムも扱っていますが、必ずビビッドなグラフィックがプリントされていますよね。

KIYO: 基本的にはデザインソースがあって、それをどうADULT VIRUSらしく表現するのかを意識していますね。1990年代のヨーロッパのレイヴフライヤーデザインをめちゃくちゃ参考にしています。手作り感がすごく良くて、店内にも当時の物をプリントアウトしてたくさん貼っています。

― どのプロダクトもプリントの発色がすごくキレイですよね。

KIYO: ボディは既製の型を使っていますけど、色出しは職人さんにもお願いして、めちゃくちゃこだわっています。ビビッドな発色やベタっとした質感を出すためには基本シルクスクリーンじゃないとダメなんですよ。ブラックライトに反応するプリントもあって、クラブで着たときの見え方は意識していますね。

― パンツはボンテージパンツが中心なのはパンクカルチャーからの影響でしょうか。

KIYO: それは間違いなくそうです。古着はリメイクすることもあって、ジャージもボンテージに加工しています。ここにあるミシンで僕が縫っているんですよ。ウチの洋服はオリジナルも古着もカルチャーに特化しているし、かなり偏っていますね。僕の趣味全開って感じだから、人によってはまったく受け付けない。わかる人に気づいてもらえばいいという感じで。

― ここまで正直なお店はなかなかないと思います。ベーシックなアイテムはないけど、お店の色ははっきりと出ていて。

KIYO: 我ながら超正直だと思いますよ(笑)。ベーシックな服は普段から着ないですし、いま着ているものも古着とオリジナルのミックスです。インドの修道着みたいな古着にアイスキューブのヴィンテージTシャツとADULT VIRUSのパンツを合わせていて、どこの国なのかわからないミクスチャースタイルを提案していますね。「何系?」と聞かれるのが嬉しいんです。

― お店の奥のスペースにはDJブースとサウンドシステムがセットされていますが、これもオープン当初から?

KIYO: ここはコロナがトリガーになりました。コロナでクラブにもレイヴにも行けなくなって、音楽ができる場所がないなら自分でつくればいいやと思ったのがきっかけです。たまたまお店に遊びに来ていた人のなかにDJやシンガーがいたので、その場でイベントをやってみたんですよ。これからも告知なしでゲリラ的にやっていこうと思っています。

― ADULT VIRUSの今後の展開について、なにか構想はありますか?

KIYO: 実は初めてのコラボグッズを用意しているんですよ。釈迦坊主さんというヒップホップアーティストとコラボすることが決まって。僕がミュージシャンだったら、きっとこの人みたいになっているだろうなと思うほどめちゃくちゃリスペクトしているし、クリエイティブな部分でのシンパシーも感じています。

お店がオープンした頃、お客さんがまったく来ない状態が続いていたときに、たまたま来てくれたのが釈迦坊主さんと彼のクルーだったんですね。一着も売れていなかったのに洋服を爆買いしてくれて。インタビューやミュージックビデオやライブでもウチの服を着てくれていて。

― お客さんとの出会いからブランドもお店も変化してきたと思うんです。洋服を買う以外に、ドリンクを飲みながら音楽を楽しんだりテレビゲームもできたりする。お店の枠を超えて、コミュニティスペースに変わってきていますよね。社会の通念の縛られない世界観が彼らに安心感を与えるのかもしれません。

KIYO: 僕はすごく世話焼きなんですよ。家庭に問題を抱えていたり、精神的に強くなかったりといった悩める若者たちが遊びに来るんです。まったく意識していなかったけど、そういう子たちが気に入ってくれるスペースになってきているんですよね。彼らの悩みには大人が関連しているから、その感じもADULT VIRUSだなって思います。家に帰りたくない子たちにとって溜まり場になっているのかもしれないです。心のケアをしているつもりはないけど、通ってくれているのは嬉しくて。

― ドリンクを飲みながらゲームもできますし、大人も若者も遊びに来れる要素が揃っているんですよね。

KIYO: でも扉を開けるハードルは高いんです(笑)。今の自分は小さい頃に「こんな大人がいたらよかったな」と思える自分になっているかもしれないです。それもADULT VIRUSと掛かっている感じもあるので、良き伝道師になれたらいいなとは思います。今つくっているのは既製の型ばかりですけど、ブランドとしては会社員時代の経験をいかして、パターンからデザインした洋服をつくってみたいですね。

Shop Information

ADULT VIRUS

東京都世田谷区北沢3-30-3 下北沢シャモット203

営業時間: 15:00 〜 21:00

定休日: 不定休

Instagram @adultvirus

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