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Shoes × Fashion

ニューウェーブ・ファッションファッションを再定義する「dilemma(ダイレマ)」のトーキョーマインド

Text Yuka Ishizumi
EditMine Kan

“狭間にある美”をコンセプトに2017年にスタートした気鋭のファッションブランド「dilemma(ダイレマ)」。駅のコインロッカーを使ってコレクションを配布するゲリライベントやセルフ”偽ブランド”のオークション出品など、その大胆なプロモーションが話題を呼び、ミレニアルズを中心に熱い支持を集めている。その首謀者であるクリエイティブディレクターの杉山浩輝さんとブランドマネージャーの高前翔太さんに突撃。挑戦的なアプローチでオルタナティブなファッションのあり方を表現する彼らの狙いとは。

― 様々な仕掛けでファッション界にインパクトを与えていますが、どういったコンセプトのアパレルブランドでしょうか。

杉山浩輝(以下: 杉山): そもそも僕らはアパレルブランドというより、クリエイティブチームだと思っています。僕は本業が広告でもあるので、アパレルでやらないような広告っぽい仕掛けをわざとやっているんです。

― ブランド立ち上げの経緯は?

杉山: ブランドマネージャーの高前翔太とは浪人時代の同級生で、彼は大学卒業後に印刷系の会社に入社しました。大学生のときから遊びの一環でTシャツを作ったりはしていて、「ふたりでまたなんかやりたいよね。とりあえずファッションやろうぜ」って話していたところに、DATSという友人のバンドのフジロック出演が決まったんです。そこで自分たちも何かやりたいという想いから、彼らの衣装をつくることになり、これがきっかけとなって我々の活動がスタートしました。

高前翔太(以下: 高前): そこからinstagramを開設し、型数を増やして2018年SSシーズンからコレクションをスタートしようと決意したんです。そんな我々のファーストコレクションがバイヤーさんの目に止まって、3店舗の取り扱いが決まりました。そこから生産して、次のコレクションも発表してってことをやっていたら、気が付いたらもう6シーズン目を迎えていたという感じです。

2018AWコレクション

2018AWコレクション

― ファッションの世界に飛び込んだのは日本のアパレル業界に対するカウンターですか?

杉山: そこはあまり考えてなくて、「何かと何かの間にあるものを表現したい」という考えが始まりです。ブランド名の「ダイレマ」ってジレンマって単語のイギリス読みなんですよ。自分たちの表現を追求したい気持ちはあるけどいまだに会社員を続けている、そのようなどちらにも舵を切りきれない、板挟みの状態を表現できたらいいよねっていうことで「ダイレマ」と名付けたんです。

― とはいえ、実際に両立させるのは大変じゃないですか?

杉山: どっちつかずの状態って僕らだけじゃないと思うんです。たとえば結婚しているからリスクのある転職をできない人とか、音楽一本に踏み切れず仕事をしている人とか。みんなそういう感情ってあると思うし、でもそれが一番人間らしいなっていうのはあって。

― だからプロモーションも自ずとテーマを持ったものになる?

杉山: 多くのファッションブランドもシーズンごとにテーマを設定し、それをアイテムへと落とし込んでいます。ですが、消費者はテーマとアイテムを見ただけでは、デザイナーの想いや伝えたかったことを汲み取るというところまではできていないような気がしています。

2019SSコレクションではコミックを作成し、そのビジュアルが服へと落とし込まれている

杉山: そんななか、どうしたら分かりやすく想いを伝えられるのかを考えたところ、毎シーズンストーリーを設けて、その文脈を楽しめるプロモーションを投げかけるようにしたんです。その表現方法には映像も音楽もなんでもあって、最初は外国人でもわかるようにコミックを選びました。そこからインスタやタンブラーでアーティストを探して、テーマにぴったりだったのがサラ・マックスウェルというアメリカ人イラストレーターだったんです。そこから、音楽や小説をはじめ、映像など、クリエイターとのコラボを毎シーズン行っています。

― コインロッカーを使ったゲリラ配布など、社会性をもったチームのように見られるのでは?

高前: コレクションにシーズンテーマがあるように、カプセルコレクションにもきちんとしたメッセージ性を設けています。

杉山: 広告的な思考が軸にあるのもたぶん強くて、どこかしら他と違うぜっていうのは見せたくて。広告的なアプローチだけどプロモーションにお金をかけずに、どこまで話題にできるか試したかった。法に触れずに、誰からも叩かれない方法で。そこで考えついたのがコインロッカーの企画で、1駅に1着、計20着のTシャツをロッカーに仕込んで暗証番号を発表するという方法でした。実際かなりフォロワーが伸びて、メディアも11箇所ぐらいが記事を出してくれました。

― 狙い通りうまくいったと。

杉山: 想定外もありましたね。コインロッカーからTシャツがなくなって他の人が荷物を入れてしまったらもう開かないじゃないですか。それを「番号が間違ってる」と勘違いした人から問い合わせがめっちゃくるんですよ(笑)。

高前: ちょっと怒り気味でね(笑)。当初は2日間の開催を予定していたんですけど、情報公開から約1時間でほとんどのアイテムが入手されてしまって。高田馬場なんて始まる前に人だかりができていたとか。

― その後、ブランド名にわざわざ「m」を追記した”偽物”を自分たちでオークションサイトに出品したり。

杉山: 有名ブランドは偽物が出回っているじゃないですか。昔、自分も掴まされて怒りの気持ちが湧いたこともあったんですが、偽物の定義って難しいなとも。もちろんオフィシャルでないという点では偽物ですが、品質でいうと偽物の方がよかったりするんですよ。
つまり材質が悪くてもブランドロゴさえついていれば本物なのか、質が良くてもオフィシャルでなければ偽物なのか、ということを世間に投げかけたかった。それで自分たちの偽ブランドをつくってオークションで出品したんです。すると自分たちの”本物”の平均よりも高い売値がついたんです。

ー 2020SSのカプセルコレクションでは、未発売のアイテムを古着屋に買い取ってもらい、その価格で実際に販売するという手法も話題を呼びました。

杉山: 古着屋に買い取ってもらう際、あえてブランドタグはつけずに出したんです。業者の質もあると思うんですけど、やっぱり東京はすごい。僕たちのことを知っていたというのもあって、ブランドタグがないことがメッセージだと気づいたんです。洗濯タグに社名を記載するのはルールなので、わかって買い取ってくれて。

ー 販売の仕方もユニークですが、毎シーズンのコレクションの見せ方も面白い。2020SSは「SPIRAL」という日記風の小説ですね。

高前: 2019AWコレクションに引き続き、小説家の藤田祥平くんとタッグを組みました。架空の主人公を立ててその子が書いている日記という”テイ”で読んでいくとストーリーがわかるようになっています。また、全編にわたって通常のフォントではなくブランドによる手書きの文字を使用することで、モノとしても日記そのもののような質感に仕上げました。

2020SSコレクション

― ルックに登場する人物が小説に出てくるバンドとリンクしているんですか?

杉山: そうですね。そこから小説に合う曲を出したいと考えていたら、She Her Her Hersと出会って『SPIRAL』という曲を提供してもらいました。物語と現実がリンクするかたちで楽曲も体験のひとつとして演出しています。そして架空の「SPIRAL」ツアーTシャツやツアーパーカーを作って、背中にはライブした場所のプリントを入れたんですが、もちろんそんなライブハウスは現実にはないわけです。

― Tシャツひとつ買うにしてもストーリーが必要だと?

杉山: 白いシャツって溢れすぎていて一緒なんですよね。それで勝つためには、買うための土台を作っていかないと残っていけない。だから色んなかたちの仕掛けをつくっていくんです。ただ服を作っている若手ブランドだったら、もうなくなっていたかもしれないですね。

― これから大きいブランドにして行きたいという野心は?

杉山: そもそも”狭間にある美”を形にするのが洋服だけとも限りません。なので今後は、表現の幅をファッション以外にも広げていくことで、クリエイティブチームとして大きくなっていきたいです。

2月に発表された2020-21AWコレクション。「MR.MOTEL」というテーマでコンセプトムービーを展開。

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