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アイコニックアイテム色褪せないハイテクスニーカーの名作 ―Reebok INSTAPUMP FURY

Text Hiroshi Sato
Illustration Atsushi Ave
Edit Momoko Naito

ブランドを代表するアイテムのルーツを紐解き、その魅力の本質に迫る連載企画。シューズ史の1ページを担ってきた数々の名プロダクトを振り返りながら、シューズの大辞典「アイコニックアイテム」を構築していこう。今回のアイテムはオリジナルモデルが1994年に発売されたReebok「INSTAPUMP FURY(インスタポンプフューリー)」。いうまでもなくストリートの絶対的なアイコンモデルであり、ハイテクスニーカーブームの熱狂を知る世代だけでなく、足元に個性を求める若い世代のファッショニスタからも支持を集めるプロダクトだ。機能だけでなく、他のスポーツブランドとは全く異なる“見た目”が求められた90年代だからこそ誕生した、Reebokを代表するモデルの誕生秘話と、90年代らしさを現代的にリデザインした最新のINSTAPUMP FURYコレクションを紹介しよう。

発売から四半世紀以上経ても変わらない近未来感

Reebokの名作「INSTAPUMP FURY(インスタポンプフューリー)」を知らないスニーカーファンはいないだろう。ハイテクスニーカーブームの直前にあたる1994年、過去に類を見ないデザインを取り入れたランニングシューズは、後のスニーカーブームの追い風を受けて親しまれる存在になった。25年以上も前にデザインされたスニーカーの多くは“ビンテージ”という形容詞が冠されても違和感がないのが普通だが、このINSTAPUMP FURYに与えられた近未来感は全く色褪せていない。当時のスニーカーブームを知るファンがINSTAPUMP FURYに惹かれるのは当然としても、若い世代のスニーカーヘッズやファッションに敏感な女性が、新鮮な魅力にあふれるスニーカーとしてINSTAPUMP FURYを“指名買い”している事実はレアケースといえる現象だ。

発売から25年以上経ったいまなお近未来感を感じるデザインで幅広い層に愛されている

INSTAPUMP FURYをデザインしたのはReebok Advanced Concepts、通称“RAC”と呼ばれるデザインチームだ。Reebokから、かつてないランニングシューズのデザインを求められたRACは、ある日エアチャンバーに空気を送り込み足の形状を問わず快適なフィット性を発揮するReebok独自の“ザ・ポンプテクノロジー”を搭載したバッシュを前に、退屈な会議をおこなっていた。

INSTAPUMP FURYデザイン構想初期のスケッチ

その際、RACに参加した4人のメンバーのひとりスティーブン・スミス氏が、ザ・ポンプテクノロジーのエアチャンバーをアッパーに構成するパーツとして採用するアイデアを思いつき、その場でラフスケッチを描き上げた。これが長きにわたり愛され続けるINSTAPUMP FURYの原点である。

2019年3月には幻の初回生産版カラーを再現した「INSTAPUMP FURY PROTOTYPE」が復刻されたが、このインソールに“RAC”のロゴがデザインされているのは上記のようなストーリーがあるからだ。

初回生産カラーの復刻「INSTAPUMP FURY PROTOTYPE」の広告にも、デザインを担当したRACのロゴが強調されている

マーケティング担当とデザインチームの攻防

INSTAPUMP FURYの開発にまつわるエピソードとしては、当時のマーケティング担当者とのやりとりもよく知られている。スティーブン・スミス氏は“かつてないランニングシューズ”のデザインの仕上げとして、INSTAPUMP FURYのアッパーをブラックとレッド、そしてシトロンと呼ばれる鮮やかなイエローでコーディネートした。今でこそランニングシューズに蛍光色が使われるのはよくあることだが、1994年当時はランニングシューズといえばホワイトやブラック等のシンプルなカラーが当たり前で、売れ筋でもあった。

当時では珍しいブラック、レッド、シトロンの鮮やかなカラーリングが目を引くデザイン

そうした状況を踏まえてReebokのマーケティング担当者は「ブラックかグレーでつくれないか?」と発言し、その言葉を聞いたスティーブン・スミス氏は完成したプロトタイプを自宅に持ち帰り、グレーのスプレーでペイントしたのだ。翌日の打ち合わせではグレーに染めたプロトタイプを「これが良いんだろ?」とばかりにデスクに放り投げる。グレーのINSTAPUMP FURYに対して「きっと売れる!」と喜ぶマーケティング担当者を見たスティーブン・スミス氏は“YOU DON'T GET IT, DO YOU?(分かってないね?)”と心の中で呟いたのだ。

しかし、実際のINSTAPUMP FURYのファーストカラーは“シトロン”がラインナップされた。商品化にあたり、マーケティング担当者の要望よりもスティーブン・スミス氏のコンセプトが優先されたのだ。ただ、発売直後はINSTAPUMP FURYの奇抜なデザインとカラーリングがネガティブに受け止められたのか、ランニングシューズとしての評価は決して高くなかった。その意味ではマーケティング担当者の意見も決して的外れではなかったのかもしれない。

それでも翌年に“ハイテクスニーカーブーム”が巻き起こるという運の良さがあったにせよ、シトロンカラーのINSTAPUMP FURYが当時のスニーカーファンの感性を刺激してReebokを代表するアイコニックアイテムへと昇華したのは紛れもない事実だ。INSTAPUMP FURYのデザインには“分かる人と分からない人がいる”と評されているが、スニーカーファンに限っていえば“分かる人”が多かったのだろう。

90年代に描かれた未公開キャラクターをデザインに取り入れた「LEGION OF FURY」

そうした誕生ストーリーを連想させるINSTAPUMP FURYに新しいコレクションが登場する。

2020年10月発売「LEGION OF FURY(リージョン・オブ・フューリー)」

10月2日に2カラーが先行で登場したのに加え、10月24日には3カラーが追加される「LEGION OF FURY(リージョン・オブ・フューリー)」は、1990年代にReebokのデザイナーとして活躍していたE.スコットモリス氏が描いた未公開のキャラクターをリデザインして、INSTAPUMP FURYのデザインに落とし込んだコレクションだ。

それぞれのカラーにエレメントの属性を持つキャラクターが落とし込まれている

このキャラクターには炎や岩、水と風、そして雷の5つのエレメントで構成するキャラクターがその世界観を広げている。10月2日に登場した「JP BLAZE」は炎の属性を持つキャラクターで、INSTAPUMP FURYのアッパーにもシトロンからレッドへと移り変わるグラデーションが描かれている。また同時発売の「ROCK C. RUSH」は岩の属性を持つキャラクターだ。ブラックのアッパーにチャコールグレーのエアチャンバーを組み合わせたルックスはROCK C. RUSHに相応しい仕上がりだ。

そして熱心なINSTAPUMP FURYファンであれば、その配色からオリジナルモデルのニュアンスを感じるだろう。JP BLAZEに使われる明るいシトロンや、10月24日発売のカラー、紫と水色はいずれもINSTAPUMP FURYのオリジナルモデルにも使われていた。

開発当時のマーケティング担当が望んでいたグレーも登場

そしてROCK C. RUSHのブラックと追加モデルの明るいグレーは、当時のマーケティング担当者が求めた配色そのものである。デザイン性に優れるLEGION OF FURYを選ぶ際にはそうしたウンチクは必要ないかもしれないが、開発時のエピソードを知っていると手にした一足により思い入れが強くなるかもしれない。

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