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アイコニックアイテム人々の生活に根付くサステナブルなトレッキングブーツ ―DANNER FIELD

Text Hiroshi Sato
Illustration Atsushi Ave
Edit Momoko Naito

ブランドを代表するアイテムのルーツを紐解き、その魅力の本質に迫る連載企画。シューズ史の1ページを担ってきた数々の名プロダクトを振り返りながら、シューズの大辞典「アイコニックアイテム」を構築していこう。今回のアイテムは2018年に登場した「DANNER FIELD(ダナーフィールド)」だ。アウトドアで使用するトレッキングブーツでありながら、街中で履くファッションアイテムとしての需要も高い「DANNER LIGHT(ダナーライト)」の基本的なデザインやスペックはそのままに、Dannerブランドと接点がなかった層も手に取りやすい価格設定でラインナップした新定番だ。発売直後には大人気のアウトドアブランドであるSnow Peakとのコラボレーションも実現したトレッキングブーツの人気の秘密を探っていこう。

アウトドアショップの別注モデルとして企画された「DANNER LIGHT」

2018年より「DANNER FIELD」の展開を開始したDannerは、1932年に森林伐採用のワークブーツを製造するブーツメーカーとして、北米ウィスコンシン州にて創業。その後に拠点をオレゴン州のポートランドに移した後、1960年代から盛り上がりを見せていたアウトドアブームの追い風を受けて、トレッキングブーツの製造を開始している。そのDannerが1979年にラインナップした画期的なプロダクトが、DANNER FIELDの原型である「DANNER LIGHT」だ。現在ではDannerを代表するプロダクトのひとつとして知られるDANNER LIGHTは、もともと北米のアウトドアショップ“REI”の別注モデルとして誕生した。

REI、GORE-TEXと共同で開発したDANNER LIGHT当時の資料

DANNER LIGHTが開発された当時、防水性と通気性を両立したトレッキングブーツはほとんど存在しなかった。REIとGORE-TEX社、そしてDannerの3社による話し合いから、全く新しいコンセプトを持つプロダクトの開発がスタート。その開発を手掛けたDannerのウィリー・サクレ氏は、革素材のブーツが耐久性に優れていると認識されていた時代に、ナイロンとGORE-TEXでシュータンとアッパーを一体にした構造“ブーティーコンストラクション”を開発。

ナイロンとGORE-TEXを用いてシュータンとアッパーを一体にした、軽量で耐久性の高いDANNER LIGHTが誕生

その上に革パーツを装着し、防水性と通気性だけでなく高い耐久性と軽量化を実現したDANNER LIGHTを完成させたのだ。REI限定モデルとして誕生したDANNER LIGHTはトレッキングブーツ以外のカテゴリーにも大きな影響を与え、それ以降のミリタリーブーツやローエンフォースメントカテゴリーで使用されるブーツにも、レザーとナイロンを組み合わせ、使いやすさとタフさの両立を意識したプロダクトが多く見られるようになっていく。

日本人の体形と相性の良いトレッキングブーツ

かつてない優れた機能を持つDANNER LIGHTだが、日本国内では機能性よりもスタイリッシュなデザインの話題が先行していた。アッパー全体を革素材で構成する一般的なトレッキングブーツに比べ、ブーティーコンストラクション構造を持つDANNER LIGHTは全体のシルエットがスマートに仕立てられ、小柄な体型の日本人と相性が良かった。1980年代はストリートでブーツを履くアメカジ文化が流行し、当時のファッション誌でもワークブーツを取り上げる特集記事が人気を集めていた。そうした特集記事を組むときに、スタイリッシュなDANNER LIGHTは欠かすことの出来ない存在であり、トレンドに敏感な若者を中心にファッションアイテムとして知名度を高めていく。

映画『Wild(わたしに会うまでの1600キロ)』では主人公のシェリル演じるリース・ウィザースプーンが着用

さらにストリートでブーツを履く文化は2000年代のミリタリースタイルにも受け継がれ、ミリタリーブーツに影響を与えたDANNER LIGHTの人気も更に加速したのである。

その人気を支えた理由にはGORE-TEXと革を組み合わせたアッパーだけでなく、Dannerが初めてトレッキングブーツに搭載したビブラムソールによる履きやすさもあるのだろう。現在のアウトドアカジュアルでもGORE-TEXとビブラムの組み合わせは鉄板ディテールといえるが、DANNER LIGHTは1979年の時点ですでに鉄板ディテールを実装していたのだ。

グリップ力と安定性があるビブラムソールは、登山用シューズの定番に

Dannerはファッションアイテムではない?

そうしたバックストーリーに支えられるDANNER LIGHTの特性を受け継ぎ、米国内の生産キャパシティの関係からアジアの工場で生産をスタートさせたのがDANNER FIELDである。前記した通り、Dannerブランドは国内ではファッション誌で知名度が向上した経緯があり、人気TVドラマの主人公もDANNER LIGHTを着用していた。そしてDANNER FIELDでもコレクションブランドやセレクトショップのコラボレーションが展開されファッションアイテムのように捉える層もいるだろう。だが、実際にはトレッキングやキャンプ、フィッシングといったアウトドアスポーツシーンで活躍するだけでなく、カメラマンやジャーナリスト、そして自衛隊員にも熱狂的なファンを持つプロダクトである。

また、Snow Peakの山井代表取締役会長が日本人で初めてDannerを履いたという逸話も伝えられており、その縁でSnow Peakは現在もDanner国内代理店を兼ねている。ワークブーツとして本物でなければ、これほどまでに長い期間ファンに愛され続けることはないだろう。

もちろんストリートシーンでDannerを愛用するファンにとっても、2018年にアジアで生産されるDANNER FIELDが登場したことで、開発に要するスピード感が向上し、時代のトレンドを反映したコラボレーションモデルの展開が可能になった事実は見逃せない。

また、サステナブル(持続可能)というキーワードは現代的なライフスタイルには欠かせない。使い捨て文化から脱却し持続可能なライフスタイルを意識する習慣は、トレンドの域を脱し、人々の生活に広く根付きつつある。そして耐久性に優れたトレッキングブーツを修理しながら長く履き続ける生活も、サステナブルに通じるものだ。ただ、“修理をすれば一生モノ”というフレーズは良く耳にするものの、修理に必要な手続きが面倒だと結局新しい商品を買ってしまいがちになる。その点Dannerのトレッキングブーツは、リクラフティング(リペア)を全国に展開するABC-MART店頭で受け付けている。これは本格的なトレッキングブーツを長く使いたいと考えている人にとって朗報だろう。

生産だけではなく、リペアも一つひとつ手作業で丁寧にほどこされている

さらに豪雨をはじめとする自然災害が他人事ではなくなりつつあるいま、いざというときにタフなシューズが頼りになることもSNSで広く拡散されている。防災グッズとしてシューズラックにトレッキングブーツを備えておくのも良いが、DANNER FIELDならば休日のアウトドアカジュアルを楽しむファッションアイテムとしても活躍してくれる。履きなれたブーツが災害時にも対応するスペックを有しているのは安心感に繋がるハズだ。DANNER LIGHTの遺伝子を受け継ぐ快適仕様のトレッキングブーツが注目されている本質は、過去のブームのリバイバルではなく、現代的なライフスタイルに寄り添う特性が改めて評価されているに違いない。

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