ブランドを代表するアイテムのルーツを紐解き、その魅力の本質に迫る連載企画。シューズ史の1ページを担ってきた数々の名プロダクトを振り返りながら、シューズの大辞典「アイコニックアイテム」を構築していこう。今回のアイテムは北米で1987年に発売され、翌1988年に日本国内で展開されたPUMA「SLIPSTREAM」。90年代のスニーカーシーンを知る世代には唯一無二のオーラを放つ「THE BEAST」のベースモデルとしても知られ、若い世代のファッショニスタにはボリューム感あるアッパーが魅力的に映るだろう。改めて、2022年に注目すべきスニーカーはSLIPSTREAMだ。

オリジナルの「SLIPSTREAM」に取り入れられたアニマル素材

現代のスニーカーシーンは、コートシューズとも呼ばれるレトロなフォルムを持つバスケットボールシューズ(バッシュ)の復刻モデルが人気の中心。なかでも1980年代後半から90年代前半にかけてデザインされたバッシュは、2022年のトレンドアイテムとして多くのファッショニスタが注目するカテゴリーだ。1987年、PUMAが展開する「SLIPSTREAM」が北米で登場。カンザス大学のプレーヤーも着用したパフォーマンス系バッシュ「SKY-LX」の後継モデルとしてPUMA USAが手掛け、NBAに勝るとも劣らない人気を誇るNCAAの強豪校のチームカラーをポイントに落とし込んだラインナップを展開していた。

1988年当時のカタログ。「THE BEAST」は、トレンドであるアニマル素材を採用した

そして1988年にPUMAが提案した「SLIPSTREAM SNAKE」と「THE BEAST」は、SLIPSTREAMのデザインはそのままに、一部のパーツに型押しのスネークスキンレザーやハラコ状のフェイクファーを落とし込んだ。パフォーマンス系バッシュにアニマル素材をインプットした背景について公式なコメントが残されていないものの、バスケットボールのトップリーグで活躍するアフリカ系アメリカ人のルーツに敬意を表したディテールと考えると納得できる。1980年代の北米ではバッシュをタウンユースするストリートカルチャーが根付き、「白っぽくないバッシュ」が人気を集めていた。オリジナルのSLIPSTREAM SNAKEとTHE BEASTのアニマル素材も、当時のトレンドを反映した演出だった。

スニーカーカルチャーとSLIPSTREAMの蜜月な関係

SLIPSTREAM SNAKEとTHE BEASTは、今でこそPUMAのアイコニックアイテムとして知られているが、1988年当時の国内では展示会には並べられたものの、正規販売に至らなかった。当時の日本ではバッシュをストリートユースする文化は定着しているとはいえず、SLIPSTREAM SNAKEで1万8000円、THE BEASTで2万円というプレミアムモデルにオーダーが付かなかったのである。一部の感度の高いセレクトショップは並行輸入していたものの、SLIPSTREAMにスポットライトが当たるのはアメカジや古着がストリートに欠かせないアイテムとなった90年代に入ってからだ。

1990年代前半のアメリカンビンテージや古着のブーム時には、年代物のリーバイス501XXに80年代のバッシュをセットするコーディネートがアイコンとなった。さらに関西では、オーバーサイズの80年代バッシュを履くダックフットと呼ばれるムーブメントが発生。adidas「FORUM」、NIKE「DUNK」、CONVERSE「WEAPON」とともにSLIPSTREAMが注目を集めた。そうしたストリートカルチャーの追い風を受け、当時のファッション誌でも80年代バッシュの特集が組まれ、アニマル素材を使用したSLIPSTREAMのバリエーションは「上級者向けの異端児」として紹介されることも少なくなかった。

80年代、日本国内で正規販売されなかったSLIPSTREAMだが、90年代には日本のファンが最も価値を認めるスニーカーとなった

そうした「他とは違う」とでも言いたげな扱いはコア層をさらに魅了し、オリジナルが日本未発売だった希少性との相乗効果で、一時はコンディションの良いオリジナルのTHE BEASTが30万円前後で取り引きされていたのだ。その背景もあり、90年代にはSLIPSTREAM SNAKEやTHE BEASTの復刻を望む声があがっていたものの、復刻に必要なソールの型は既に失われていた。ソールの型を復活させるにはコスト面で高いハードルがあり、1998年にはPUMAのスケートボーディングシューズ「REMO」をベースに、THE BEASTのヒョウ柄を受け継いだ日本限定モデル「REMOSPOT」が発売されたものの、企画段階ではPUMA USAからは酷評された。ただ実際に発売されたREMOSPOTは日本のスニーカーファンから大いに歓迎され、好調なセールスを記録している。その実績は日本のスニーカーカルチャーからPUMA USAに向けた、意味のあるメッセージになったはずだ。

マニアのためだけのスニーカーじゃない

SLIPSTREAMと日本のスニーカーカルチャーの関係を色濃く反映した一足が、匠コレクションから2012年秋冬にラインナップした「JPN SLIPSTREAM SNAKE」である。デザインバランスと日本の熟練した職人の手で生産された重厚な仕上がりは旧来からのオーディエンスを満足させるだけでなく、新たなSLIPSTREAMのファンを生み出した。

そしてSLIPSTREAM誕生35周年にあたる2022年3月に発売予定「SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE」は、オリジナルモデルが採用していたTPUパーツをレザー素材に変更し、経年劣化対策に配慮している。上質な姫路レザーを採用したアッパーに施されるスネーク柄は、ウロコ状の凹凸を反対にした型を製作し、型押し後に溝部分の塗装を削り落とす高度な技術を採用。ウロコのディテールが際立つ一足に仕立てている。さらに日本人の足に馴染みやすいラストやナチュラルな履き心地を生むカップインソールを採用し、MIJならではのフィット感を確保している。

日本製SLIPSTREAMとしては初のローカットモデル「SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE」

シューズを脱ぎ履きする機会の多い日本では、何かとローカットのスニーカーが使いやすい。「SLIPSTREAMといえばハイカット」と信念を抱くコア層もいるかもしれないが、そうした先入観はいったん忘れて特別なMIJを履きこなし、自分の一足に育てるエイジングを楽しめる。

また、現代のトレンドを反映したローカットモデル「SLIPSTREAM LO RETRO TEAMS」と名付けられたコレクションは、1987年のオリジナルを彩ったカレッジカラープログラムのコンセプトを再解釈し、PUMAと契約する現役NBAプレーヤーの出身校のチームカラーをサンプリングしたプロダクトだ。

スエード素材のアッパーにスムースレザーのオーバーレイを組み合わせ、素材の違いでディテール感を強調している

例えばロイヤルブルーとホワイトは2022年2月にデトロイト・ピストンズへ移籍したマービン・バグリー3世や、2019年にニューヨーク・ニックスに加入したRJ・バレットの出身校であるデューク大のチームカラーだ。単に流行りのカラーを取り入れるのではなく、その仕上がりに意味を持たせるアプローチが何とも心地よい。

幅広い世代のスニーカーファンが求める王道デザインにバリエーションモデルが登場した2022年は、どちらかといえばマニア向けだったSLIPSTREAMのイメージを変える、ブレイクスルーの1年になるだろう。

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